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ディンギーノッてる?(KAZI連載)

『きっかけ』

April,2005

 text by Koji Ida

 

「なんでヨットを始めたの?」

 

最近、機会があれば、そう訪ねることにしている。

こんなにマイナーなヨット競技、始めるには余程の理由があるはずだ、と勝手に決めている。

 

その理由に興味がある。

みんなの始めた理由を知れば、競技人口を増やす為のヒントが見つかるかもしれない。

 

僕の場合、中学2年のときに担任の先生が課外授業を企画してくれた。

 

市内のヨットハーバーでの体験試乗会。

そのとき、始めてヨットに乗った。

 

僕を乗せてくれたのは、頭がボサボサで、ちょっとインチキ臭そうなオジサン。

そのオジサンは僕の顔を見て「君は絶対にヨットを始める!」と予言めいたことを言い出した。

 

後に知るに、新家さんという全国に名の知れた、スナイプのトップセーラー。

 

なぜ新家さんは、僕にそんなことを言ったのだろう。

もしかして、全員に同じことを言っていたのかなぁ、とも思う。

 

その2年後、僕はヨット部員になっていた。

 

 

小学5年から、ずっと競泳をやってきた。

競泳こそが、この世界で一番厳しくて高貴なスポーツと信じていたし、今でもそう思う自分が残っている。

 

ただ、水泳競技での僕は、惨めな三流選手。

好きでやっているはずの競泳が、記録が伸びず、順位も上がらず、いつしか苦痛でしかなくなっていた。

中学3年の頃には、偶然性が勝負を分けることもある、球技みたいなスポーツが、無性に羨ましく思えた。

 

でも当時の僕は、すぐに競泳を辞めることができなかった。

幼いながらも「負け逃げ」と思われるのが嫌だった。

だから、辞める理由を違うところに探した。

 

学力的には、もう少し賢い高校を周囲からも薦められていたのだが、「自転車で通学したいから」という言い訳で、自宅から一番近い普通科の高校を受験した。

 

本当の理由は、水泳部がなかったから。

このこと、実は初めて告白する。

つまらないことだと思われるだろうが、そのときの僕にとっては、一番大切なことだった。

 

そんな経緯で、憧れの「偶然性が勝負を分けることもある競技」を探して、「ほとんど偶然だけが勝負を分ける」セーリングに辿り着いた。

同じ中学校の、同じ元水泳部の先輩がヨット部にいたことも、ひとつの要因となった。

 

いろんな偶然が重なって、セーリング競技を始めることになったのだ。

 

まさしく、偶然がもたらしてくれた幸運。

 

 

それに比べて、ヨットを辞める切っ掛けは、今まで沢山あったように思う。

 

高校卒業のとき。

大学に入って、体育会の厳しさを体感したとき。

先輩に不条理な理由で怒られたとき。

週末に会えないことが理由で彼女に振られたとき。

寒い冬を迎えたとき。

インカレで負けたとき。

就職して忙しくなったとき。

結婚して家庭を持ったとき。

どんなに努力しても、何度やっても、勝ちたいレースで勝てなかったとき・・・・・・。

 

 

始めるよりも、辞める切っ掛けの方がはるかに多い。

だが、辞める切っ掛けにも意味があった。

 

その切っ掛けを乗り越えてきたからこそ、今の僕は、昔の僕より少しは強くなれたと思う。

 

だから、辞める切っ掛けはそのままでいい。

辞めたい人は、辞めればいい。

誰でも続けられるような、甘っちょろい世界になってもつまらない。

 

始める切っ掛けを増やしたい。

仲間を増やす切っ掛けを増やしたい。

 

世の中には、ヨットスクールもあるし、ヨット部の新人勧誘もあるだろう。

でも僕には、そんなに大掛かりで、大袈裟なことはできやしない。

まずは、近所の家族や会社の同僚などに「ヨットハーバーに遊びに来ない?」で、いいじゃないかと思っている。

 

海に来て、ヨットを見れば、誰でも乗りたくなるのだから。

そんな魅力のあるスポーツを僕はやっている。

そんな自信があるから、今度の週末にでも、誰かを誘ってみようかな。

 

そして言ってやるのだ。

 

「君は絶対にヨットを始める!」

 

 

 

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