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ディンギーノッてる?(KAZI連載)

『ヘルプ ミー』

April,2005

 text by Koji Ida

 

「ちょっと手伝ってもらえませんか?」

 

僕が遠征で見知らぬハーバーに行った場合、そこにいる見知らぬ人たちに、必ず申し出なければならないセリフである。

 

僕は、スナイプという二人乗りディンギーに乗っている。

 

このボートは二人乗りのくせに、二人だけではトラックから降ろすことができない。

 

その重さ故に、どんなに人見知りをする性格でも、初めて出会うアカの他人に、肉体労働を要請しなくてはならないのである。

 

スナイプだけでなく、シングルハンドにしても、470にしても、ほとんどのディンギーが同じような感じではないだろうか。

 

 

 

 

ただ、そんな面倒くささが、この競技のいいところなのではないか、と思っている。

 

他のスポーツは、別に見知らぬ人の協力を求めなくても、結構ほとんどのことが出来てしまう。

 

サッカーボールを運ぶのに、野球のバットを運ぶのに、他のチームの協力は必要ない。

 

自分もしくは自分のチームメイトで、ほとんどのことが出来てしまうから。

 

それは他の選手や、他のチームとの交流をとる必要がない、ということでもある。

 

 

 

ディンギーレースは違う。

 

かならず他の選手の協力が必要になってしまう。

 

協力をお願いするとき、まずは自己紹介をするだろう。

 

自分が何処の誰で、何をしにきたのか、何を手伝って欲しいのか。

 

そして、相手のことも聞くだろう。

 

「どこの学校?」

「何年生なの?」

「艇種は何に乗ってるの?」などなど。

 

それが発展すれば、

 

「地元選手から見ると、ここの海はどうなの?」

「潮流は速いのかな?」

「今日の風なら、左右どっちの海面が伸びるの?」

「この季節は今日みたいな風が多いのかな?」

 

と、どんどん打ち解けてくるはずである。

 

さらにエスカレートすれば

 

「これから一緒に練習しない?」

「この辺の名物は何かな?」

「今晩、一緒に食べに行こうよ」……。

 

 

そこまで深入りするかどうかは別にして、これがディンギーレースのいいところだと思う。

 

簡単に道具が持ち運べてしまう競技スポーツでは、かならずしも必要ではない。同じヨットでも、クレーンで持ち上げるキールボートでは、かならずしも必要ではない。

 

でも、ディンギーレースでは他選手との交流が、かならず必要になってしまう。

 

逆にみんな、他の選手のチカラを借りないといけないので、普段から仲良くしようとしたり、チカラを貸してあげようとしたりしているのではないだろうか。

 

他のスポーツでは、ライバルはライバルであり、仲良くする必要はないのだが、ディンギーレースは、ライバルと仲間にならなければいけないのである。

 

この地球上に数少ない、対戦相手を巻き込まないと継続できない競技スポーツ。

 

 

 

 

他水域への遠征に限らず、僕はホームハーバーにいるときも、ボートを横だおしや引っ繰り返したりするときには、周囲の学生たちに協力を求めないといけない。

 

だから僕は、学生たちにも普段から挨拶するようにしたり、笑顔をたやさず、やさしいオジサンと思われるように、偽善の限りをつくしている。

 

末永くヨットレースを続けていく為には、「イバった先輩」にはなれないのだ。

 

 

 

僕はもともと、結構な人見知りをする性格である。

 

多分、この告白を読んだ、僕をよく知る人たちは「うそつき!」と否定してくれると思うが、自己評価では本当のこと。あくまで、自己評価では……。

 

このシャイな性格に、二重人格のAB型ということで、他人からも近寄ってもらえない。

 

そんな僕でも、この競技を長くやっている御陰で、全国各地に多くの知り合いが出来た。

 

人見知りの性格も鍛えられ、こんなに愛敬あふれるガメツイ人間に成長させてくれた。

 

だから「ちょっと手伝ってもらえませんか?」というセリフ。

 

今ではもう、口癖である。

 

 

 

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