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ディンギーノッてる?(KAZI連載) 『スロースピード』 May,2005 text by Koji Ida
「これこれ! ヨットって、この瞬間が一番スゴイなって思うんだよね。」
高校1年の秋、僕がFJのクルーを始めたときのこと。
コンビを組み始めた一年上の先輩スキッパーが、練習中に話してくれた。
その日は、地元の海では珍しく、殆ど無風の一日だった。
たまに、ウナジに少しだけ感じる、0〜1m/sくらいの微かな風に、ヨットがゆっくり帆走っていく。
「ぜんぜん風なんかなくて、セールも殆どハラんでないのに、ヨットって帆走るんだよね。本当によくできた乗り物だと思うよ。」
その先輩の言葉が、16年経った今でも脳裏に残っている。
言った本人は覚えていないかもしれないが、僕の中では一番ココロの残っている「ヨットへの誉め言葉」。
変な話である。速さを争うスポーツなのに、一番速くないときに感動している。
僕は、ヨットの何が好きなんだろう。
速いのが好きだったら、車やバイクの方が速いし、同じマリンスポーツでも、ジェットスキーやウィンドサーフィンがある。
でも僕は、とってもとっても遅いノロマなヨットが好きのようだ。
「レースなのだから、勝つことに本当の楽しみがある」という人もいる。
でも、全部のレースに勝てる訳ではないし、全員が勝てる訳でもない。
確かに、レースで勝つことは大きな喜びだが、それだけではないと思う。
それに、レースが好きならヨット以外にも沢山ある。
ん?そう考えると「レース」と呼ばれる競技の中で、ヨットって一番遅い乗り物なのではないだろうか、と思いつく。
車、バイク、自転車、競馬、競艇、ボブスレー、リュージュ・・・・・・。
そうだ。
一番ではないかもしれないが、ヨットって、かなり遅い乗り物なのだ。
最近思うに、実は僕、レース自体はあまり好きじゃないことに気がついた。
歳を重ねて、結果以外にも目を向ける余裕が、少しは出てきたようである。
クローズホールドで競り合うとき、風上艇から「シャパシャパシャパ」と波を切る音が聞こえてくる。
アビームで先行艇に追いつこうと、その引き波を辿っていく。
そんな部分的なところが好きなのだ。
スタートなんかは、緊張するので余り好きじゃない。
練習だけで十分に楽しいのだ。
練習で、人より速かったら嬉しいし、遅くても、それを改善する過程が楽しみだ。
キールボートに乗るときは、ウィンチハンドルに体重を乗せて「カリカリカリ」と廻すのが好きだ。
音の響きが心地いい。
あと、ゆっくりとバウからスターンを抜けていく波の動きや、陸に上がったビックボートのハルラインを、ボ〜と眺めているのも好きだ。
音が聞こえる。
風を動力とするヨットでは、自然の音がそのまま聞こえてくる。
エンジンや機械が動力の乗り物には、絶対に聞こえない音が、ヨットでは聞こえてくる。
そんな音が好きだ。
曲線があり、流れがある。
波の上を帆走り、風を吹き流していくヨットには、滑らかなカーブが所々にある。
そんなカーブが好きだ。
僕は、結構な曲線フェチなのかもしれない・・・・・。
遅いから聞こえる音があり、遅いから、直線にならずに、曲線のままで残っているものがある。
遅いから好きなのだ。 遅いところが好きなのだ。
プレーンニングも大好きだが、それだけならウィンドサーフィンの方が面白い。
好きなところは、人それぞれだから、みんながどうかは分からない。
ゆっくり帆走る乗り物だから、ゆっくり考えてみてはいかがですか。
あなたの中で、一番ココロに残る「ヨットへの誉め言葉」。 ■
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