|
BACK NUMBER esseys of sailing and life. |
|
|
ディンギーノッてる?(KAZI連載) 『肩書き』 June,2005 text by Koji Ida
「ヨット競技をやってるんです。」
僕はいつも、そう応えている。
ジグロの上に、必要以上に紫外線を浴びた僕の顔は、街の中では非常に違和感があるのだろう。
初めての顧客と名刺を交わすとき。 床屋さんで髪を切るとき。 お喋りな運転手さんのタクシーに乗ったとき。
その場面で相手の人は、必ずといっていいほど「色黒いですね。何かやっているんですか?」と尋ねてくる。
「ヨット」ではなく、「ヨット競技」。
そう返答することによって、スポーツに取り組んでいるのだ、と僕は主張するのである。
誰も、そんな主張なんて求めてはいないのに……。
僕は自分の肩書きについて、よく悩む。
皆さんも同じように考えたことはないだろうか。
自己紹介するときに、なんて言ったらいいのだろう。
まあ現実には、単なるサラリーマンなのだが、僕の場合、そのことからは常に逃避することにしている。
僕は“セーラー”である。
ヨットに乗る人は、それで間違いない。
でも直訳すれば、sailor=水夫、である。
ベースボールプレーヤー=野球選手。
ランナー=走る人。
でも、セーラーは「水夫」。
女性選手は「水婦」って書くのだろうか。
僕はセーラーだとは思うが、水夫ではない。
なので、もう少しいい呼び方はないのかと考える。
僕は“アスリート”である。
自らの肉体と技術を磨き、偉大な自然と、強大なライバルに対抗する為に、日々努力を積み重ねている。
長時間のハイクアウトに耐え続け、最後までセールトリムを怠らない。
目指す結果の為に、三日に一回はマシーンジムで1時間汗を流し、その後にスイムで2000m程度のメニューをこなす(昔のはなし)。
そう、僕はアスリート。
でも結局、帆走るのはヨット自体だし、ベタベタの微風の時は、スポーツって感じではないし……。
僕は“レーサー”である。
競争用に造られたマシーンに乗って、フルスピードで突っ帆走る。
最速を求めて、空気抵抗を最小限に抑え、マックスパワーを引き出す為に、ひとつひとつのパーツに拘り、自らチューンナップに余念がない……。
そう、僕はレーサーだ。
きっとレーサーに違いない!
といっても、スピードを求めるなら、車やバイクだろう。
まして、ヨットと比べたら、チャリンコの方が速いしなぁ〜。
僕は“ヨットマン”である。
でもヨットという言葉は、一般の人においては、レースというよりも、冒険とか航海を連想させるらしい。
「今度ヨットのレースで、ブラジルに行くんですよ」と言うと、「スゴイなヨットマン!でもブラジルまでって何ヶ月かかるの?」と返される。
結構、こういうケースが多い。
当然ながら、ブラジルまでは飛行機だ。
僕は、冒険家でもないし、航海士でもない。
だから、ヨットマンというのは、少し違うのかもしれない。
それに、響きから「ウメボシ食べてスッパマン!」を連想するから、ちょっとイヤ。
そんな訳で、ヨットレースと云う競技種目を、生活とココロの中心に置いている人達の呼び方を新しく考える必要がある、と僕は勝手に思い込む。
自分を一言で正確に表現できる言葉がないというのは、どうしても寂しいからだ。
僕は“しがないサラリーマン”という以外に、自分を一言で正確に表現できる言葉が欲しい。
でも、なかなか適当な呼び方が見つからない。
そんなことを考えているうちに、この欲求不満から開放される方法を思いついた。
これさえしていれば、呼び方なんて小さなことを考える必要がない。
その方法とは「海に行ってヨットに乗る」。
そこでは「色黒いね。何かしてるんですか?」なんて、誰も聞いてこないから……。 ■
|
|
|
esseys of sailing and life. BACK NUMBER |
|