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ディンギーノッてる?(KAZI連載) 『僕はヨット未体験』 September,2005 text by Koji Ida
「オレ、ヨットやってたんですよ!」
何年前のことだろう。
残業帰りの電車の中で、向かいの席に座っている若いサラリーマンのひとりが、意気盛んに談義していた。
どうやら、その晩は新入社員である彼の歓迎会で、ちょっと酔いも回って、自己紹介の延長戦に突入しているようだ。
「僕が乗ってたヨットは470級っていうんですけどね、結構オレ速かったんですよ!○○大学や△△大学をやっつけたりしてね……」
どうやら彼は、自己紹介の中では無敵のトップセーラーのようである。
お酒の力を借りれば、世界一のボートスピードが手に入るのだろう。
その話の信憑性は疑わしいが、同じ電車で、自分以外にヨット関係者のいたことが嬉しくて、彼のヨット講座を楽しく聞かせてもらった。
でも、よくよく聞いてみると、彼が同僚たちに紹介するヨットとは、「470級」と「大学ヨット部」だけなのだ。
その当時、僕もディンギーでの活動しかしていなかったのだが、「ヨットって、こんなに狭い世界だったのかなぁ」と疑問に感じた。
学校の運動部で、3年か4年くらいディンギーに乗ったくらいで「ヨットやってたんですよ!」と豪語できてしまえるものだろうか、と思ったのである。
彼の紹介するヨットは、ワイヤーにぶら下がって、先輩に怒鳴られて、後輩を叱っている、だけのヨット。
それはちょっと違うだろう、と思いながらも、自分を振り返ってみると、酔っ払いセーラーの彼と大した違いはないみたい。
このままでは僕も「ヨットやっています」なんて言えないなぁ、と反省する。
そんなとき、会社の上司から
「お客さんがクルーザーに乗っていて、君のことを紹介したら、ぜひ来て欲しいって言うのだけれど……」
と、キールボートのチームを紹介された。
仕事がらみで行くのは嫌だったが、ちょうど新しい何かをしたいと考えていた矢先だったので、とりあえず行ってみることにした。
どんな人たちがチームにいるのだろう、と少しドキドキしながら、ヨットハーバーの待ち合わせ場所にいってみる。
すると、僕を待っていたのは、昔のディンギーでの知り合いばかり。
しばらく顔を見ないと思ったら、こんなところでヨットをやっていたのか、と驚くとともに、知らない場所への緊張が一気にほぐれる。
そんな偶然が重なって、僕はそのチームでお世話になることに決めたのだ。
勉強するには環境が大切である。
はじめてキールボートを覚えるのに、僕は本当にいいチームにめぐり逢えたと感謝している。
ディンギーでは全日本タイトルも取ったことがあったのに、一番下っ端のペーペーからさせてもらえたからだ。
週末は、一番はやくハーバーにいって、セールを運び、ビルジを抜いて、艤装準備を整える。
練習が終われば、水びたしになりながらモップでハルを磨く。
そういった下働きをしながら、セールのパッキングやウィンチのばらし方を教えてもらう。
毎週が充実感でいっぱいだった。
こんなにヨットについて知らないことがあるなんて、はじめて知ったのだ。
もう10年ちかくヨットをやっていたのに、知らないことが沢山あって、教わることが沢山ある。
そんな風に教えてもらいながらも、教えてくれる人の中には、キールボートしか乗ったことのない人もいる。
だから僕は逆に「ディンギーはキールボートと違ってね……」なんて講義しちゃったりする。
そんなことを続けていると、僕も少しはヨットをやっているのかなぁ、なんて思えてくる。
今でもペーペーのままなのに……。
セーリングは多種多様な姿があると思う。
いろんな艇種 いろんな大きさ いろんなポジション いろんなレース いろんな海。
すべてをやる必要はないし、不可能だ。
でも沢山やってみて、たくさん知っているほうがいい。
たくさん知っていれば、自分の目指したいものを見つけたり、そのときのライフスタイルに合わせたセーリングを選べるから。
せっかくはじめたヨットなのに、少ししか知らないのは詰まらない。
あなたはヨットやっていますか?
僕はまだまだ、これからです。 ■
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