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ディンギーノッてる?(KAZI連載) 『シングルライフ』 February,2006 text by Koji Ida
「いつかはシングルハンドだね!」
高校でFJ級のクルーをしているときに、そんなことを夢みていた。
僕の高校では海が近かったので、週末だけでなく平日も放課後は練習である。
だから毎日毎日、先輩スキッパーに
「もっとヒールを起こして!」 「ジブトリムをちゃんとしろよ!」 「スピンから目を離すな!」
と小言をいわれてばっかり。
のんびり屋の僕としては、怖くて口には出せなかったが、心の中で「ちょっと待ってくださいよ、こっちにも都合があるんですから・・・」などと思っていた。
そのときの先輩が特別口うるさかった訳ではない。
ツーマンディンギーのクルーを務めた経験を持つ人は、みな同じだったはず。
いまの僕は当時とは逆の立場になって、クルーに小言を言い続けている。
ただ、相棒は僕より年上なので「ブツブツうるさい!」と逆ギレされるだけなのだ。
高校時代、そんな怒られっぱなしの僕は、レーザーやシーホッパーなどの一人乗りディンギーに憧れた。
誰にもブツブツ言われない、自分勝手になんでもできる “シングルライフ”を夢みたのである。
ヨット部に入った一年目、夏が近づくにつれ先輩たちはインターハイなどに向けての特訓で忙しい。だから僕たち一年生は、誰にも相手にしてもらえない。
ハーバーでスロープ掃除をしているだけでは退屈なので、同級生の男子部員三人で艇庫の中に埋もれていたトッパーを掘り出して、自分たちで遊びだした。
クルーさえまともにできない素人が、小さなトッパーながらも、スキッパーに挑んだのだ。
そのときの楽しさとドキドキ感が今でも忘れられない。
それからしばらくときが経ち、大学に入ってからのオフシーズン。
昔の夢を果たすために、シーホッパーの草レースに参加してみた。
初めて出場したシングルハンドのレース。
きちんとセーリングしているつもりなのだが、予測と逆のシフトが入るし、熟練シングルハンダーたちとはボートスピードが違いすぎるし、まったく勝負にならない。
上マーク順位のよくないことが確定すると「くそっ!なんでやねん!」と独り言。
そして、下マークを回ってバングオン!さあっ、これから挽回だ!っていうときに、マストが折れてセールが僕の上に降ってきた。
そこでもう一度、「くそっ!なんでやねん!」。
その独り言が哀しくて、それ以来シングルハンドのレースには出場していない。
どうやら僕は、弱音や小言を受け止めてくれる相棒がいなければ、ヨットレースのストレスに耐えられないようだ。
その前に、ひとりでヨットを帆走らせる技量がなかっただけなのだが。
という訳で、憧れのシングルハンドについては、僕は“不向き”ということで結論を得た。
でも、不向きなのはレースであり、ただ単にセーリングするだけなら問題ない。
いまでも夏の風が心地いい日は、レーザーでプレーニングだけを楽しむときがある。
決してクローズホールドは帆走しない。ハイクアウトの辛さに「くそっ!」と、また独り言が出そうだから。
寒い冬のオフシーズン、僕は何週間かヨットに乗らないと“乗りたくてウズウズする菌”に全身を蝕まれる。
でも、そんな極寒のときにクルーを呼び出そうものなら、翌シーズンを待たずにコンビを解消されそうなので、ひとりでレーザーでも乗ろうとハーバーに向かう。
そんなある日、艇庫のシャッターを開けると、連絡もしていないのになぜか相棒がいるのである。
理由を尋ねると「いや、レーザーにでも乗ろうと思って・・・」。
相棒も、僕と同じ病魔に侵されていた。 ■
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