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ディンギーノッてる?(KAZI連載) 『居場所』 April,2006 text by Koji Ida
「どこで ご飯食べようか?」
ここ最近、毎週のように同じ質問を妻に投げかけている。
寒いオフシーズン。僕はヨットハーバーに行くことも少なくなり、週末は家族と一緒に休日を過ごすことが多い。
でも、どこでランチタイムを過ごしたらいいのだろう。
優柔不断な僕は、なかなか決めることができないのだ。
みなさんは、そんなことで悩んだことがないだろうか。
高校時代の練習日。昼食は近くのお弁当屋さんに注文をして、ハーバーまで宅配してもらっていた。
天気のいい日は艇庫の前で、皆でその弁当を広げて、午前中の練習のことを話題にしながら食事をとる。
自分のほうが速かったと主張しあったり、沈をした原因(言い訳)を熱弁したり。
そのひとときが、セーリング競技を続けてきた理由の一つのような気がしている。
ヨット自体への興味よりも、「皆と一緒に昼食をとる、その場所に居たい」という気持ちのほうが大きかった。
そして知らないうちに、学校でもなく街の中でもなく、ヨットハーバーが僕の居場所になっていた。
地元を離れて15年ほどが過ぎ、最近は実家へも年に一度くらいしか帰れない。
でも、そのときは必ずハーバーに足を運ぶようにしている。
高校生セーラーたちが顔も知らない僕に「コンチワー!」と元気よく挨拶してくれる。
僕は、堤防の先で後輩たちの練習風景をしばらく眺めてから、昔馴染みには誰にも会わずに、ハーバーを後にする。
それだけでも、そこが心地よい場所として僕の中に残っている。
高校の三年間を過ごした地元のヨットハーバーは、国民体育大会の開催を機会に建設されたものだ。
当時は、毎年のように国体開催地でヨットハーバーが新しく建設されて、それを観に行くのが楽しみでもあった。
いまでも僕がディンギーのヨットレースで遠征に行くハーバーは、国体のために建てられたところが多い。
しかしながら、最近の低予算で運営される国体では、ヨットハーバーがその為に建設されることはない。開催地は、既存のヨットハーバーを使ったり、仮設会場を準備したりするケースが殆どと聞く。
でも、新しいハーバーが出来なくなったからといって、僕にとっては困ることは何もない。大切なのは、新しさではなく、居心地なのだ。
ハードに練習できる海があり、楽しくランチを過ごす仲間のいる場所。
じつは僕、昨年末にヨットハーバーの近くへ引っ越してしまった。
歳相応に仕事も忙しくなり、子供も授かったので、昔みたいに海へ足を運ぶことができなくなった。
でも、オフィス街やショッピングモールが僕の居場所ではないし、そこで過ごすランチタイムに充実感も感じない。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、「ヨットハーバーの近くに引っ越そうよ」と妻が言い出した。
たまたま賃貸でいい物件があったので、トントン拍子で引越しを決めてしまった。
最寄り駅が遠くなり、通勤の苦労は倍増したが、散歩で行ける距離にヨットハーバーがある生活は、僕にはとても幸せな環境だ。
この原稿を書いている時点では、やっと春の訪れが近づき、天気のいい日は外でお弁当を広げられるくらいの暖かさになってきた。
僕の新しい居場所が、心地いい場所になるかどうかは未だ分からない。
でも取りあえず、ハードに練習できる海と仲間、そして美味しいお弁当屋さんは確保している。
晴れた週末にランチタイムを過ごしたい場所。
それがその人の居場所ではないだろうか。
全国のヨットハーバーは、そういう場所になっているべきだ。
寒いオフシーズンのあいだ、街の中に居場所のない僕は、そんなことをふと思う。
さあ皆さん、お弁当を持ってヨットハーバーに行こうじゃないか。 ■
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