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ディンギーノッてる?(KAZI連載) 『スタートライン』 Oct,2006 text by Koji Ida
ある技術書を読むと、レース結果の8割がスタートの出来に掛かっている、と書かれている。
スタート。
ヨットレースで最も緊張してしまう場面だ。
僕はいままで、何回のスタートを経験したのだろう。
何度やっても上手くならないので、最近では上手くなる努力をやめてしまった。
高校時代は、スタートがむちゃくちゃ下手くそだった。
スタートの練習をしたことがなかったのだ。
全国インターハイに行って、はじめてスタートの重要性が身にしみた。
大学のときは、インカレの2ヶ月以上前から「第一レースは何処からスタートしようか・・・」と悩んで、夜も眠れなかった。
本番当日はどんな風が吹くのか分からないのに、なぜかスタートをどうするか考えている。
本部船側から出るべきか、それともアウター側か。
本部船側からだと、何分前からラインに並ぼうか?早めがいいかな、それとも少し遅めに・・・。
こんな意味のない思考を一時間ほど続けて、「まっ、レース当日に考えればいいか!」とやっと我に返る。
これを一日に数回繰り返す。
非常に疲れる作業なのだが、実は良いイメージトレーニングになっていた。
このイメトレの緊張で疲れ果てて、本番ではほどよくリラックスしてレースに挑むことが出来た。
リラックスし過ぎて、何度もリコールしちゃったけどね。
いままで一番印象に残っているスタートは、はじめて出場したスナイプ世界選手権の第一レース。
「この一瞬のために、いままで頑張ってきたんだ!」
と気合をいれて、風上ピンエンドからのスタートを狙う。
最初のレースを有利エンドから出ることは、半年前から決めていた。
はじめての世界選手権。スピードやコース展開が通用するか分からないので、「勝つためには最初から攻めるしかないのだ!」と自分を洗脳する。
優勝候補のブラジルやアメリカとポジションを競り合う。スタート前の1分間が、10分くらいに感じられるほど集中力が高まった。
そして、見事に本部船の横からフルスピードでスタートすることに成功。
スタート直後は足が震えて、チカラが全然入らない。
最高の緊張がもたらした、世界一のスタートだった。
でも、そのレースのフィニッシュは30位。
やはり、スタートだけではヨットレースは勝てないのだ、と再認識。
それでも、一番の想い出となる抜群のスタートだった。
その後、僕もそれなりにキャリアを積んで、ボートスピードやコース展開でフリートに対するアドバンテージが持てるようになってからは、スタートでそんなに有利エンドを狙わなくてもよくなった。
とくに若い選手が多いレガッタでは、予測できない動きで邪魔をされることもあるので、リスクの高い密集地へは近寄らない。
自称“ダラダラスタート”である。
でも最近では、練習不足でそのアドバンテージもなくなってきたので、勝つためには昔のように緊張したスタートを強いられる。
正直なところ、スタートなんて大きらいだ。
元来弱虫の僕にとって、スタートの緊張に立ち向かうには、それなりの覚悟と犠牲が必要なのだ。
「ヨットレースからスタートが無くなってしまえばいいのにー!」
と、ムチャな発想をしてしまう。
でも振り返ると、その緊張という経験が、自分を大きくしてくれたと思えている。
ヨットレースは長いのに、その最初の一瞬が結果を大きく左右する。
だから誰もが緊張するし、それゆえに記憶に深く刻まれるのだろう。
成功でも失敗でも、この競技に青春を捧げた者はみんな、「最高のスタート」を覚えているはずなのだ。 ■
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