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ディンギーノッてる?(KAZI連載)

 

『オーシャンビュー不安症』

 feb, 2008

 text by Koji Ida

 

 

 日、ご近所の友人宅での新年会に招かれた。うちの長女(二歳)と同級生の親たちが集まって、日頃の育児疲れを癒しあおうという企画である。

 

その会場を提供してくれた友人宅のマンションは、ベランダ越しに海とヨットハーバーが見渡せる、まさしくオーシャンビューなロケーション。わおっ、とってもビューティフル。

 

そんな景色を眺めながら、みんなで持ち寄った食材を楽しもうと、わが家からは妻の実家(栃木)で習得した“もんじゃ焼き” をご披露させていただいた。関西では、もんじゃ焼き未体験の人がまだまだいるようで、珍しさと手軽さで今回のわが家の出し物は大人にも子供にも大好評だった。

 

そうやって、オーシャンビューでの美味しい食事と育児談義で楽しい時間を過ごしたのだが、途中から、僕のココロは少しモヤモヤとして落ち着かない。

 

なぜかというと、そのベランダ越しに、練習しているヨットが観えたから。

 

 

僕は、他の選手が練習しているときに自分が何もしていないと不安になってしまう。そんな意識が骨身に染み込んでいるのだ。

 

高校時代、僕がセーリング競技を始めたのは、強風で有名な日本海のゲレンデ、鳥取の境港。

 

北東の沖からの風は、大きなウネリとともに僕たちのFJを呑み込んで、海岸の砂浜まで打ち上げてくれる。西からのオフショアは、流れる積雲の周期で強烈なブローを吹きつけて、僕たちを片っ端からなぎ倒す。南にそびえる大山からの吹きおろしがやってくると、殆どの場合レスキューが必要になるので、風向が少しでも南に廻れば全力帆走でハーバーバック。

 

そんな場所なので、毎日の練習が恐くて恐くて、大嫌いだった。平日の放課後の練習だけでも、何度も何度も沈をする。授業中は、教室の窓から見える樹の枝葉が風で揺らぐたびに、「今日も吹くのかなぁ」と、不安のため息を漏らしていた。

 

 

いちおう基準としては、風速11m/s以上であれば海上練習しなくていい、ということになっていた。

 

なので、出艇前はハーバーの風速計の前で数値が上がるのをずっと待ち、11m/sを超えた瞬間にコーチのところへ走り寄って、「あのー、今日は吹きすぎているみたいなので・・・」と練習中止を申し出る。

 

当時の優しいコーチは、「えっ、練習しないの? それは自分たちで決めればいいけど、福岡の○○学院や山口の△高校は今日もいい練習してるんじゃないのかな?」なんて、嫌味なコメントを返してくれる。

 

そういわれると、海に出ないわけにはいかないじゃないか。

 

そんなやりとりをいつも繰り返していたので、他の誰かが練習しているときに自分が練習していないと、不安に感じてしまうようになったのだ。

 

 

 

という訳で、ヨットさえ見えなければ、何も思い出さずに楽しく呑んでいられたのに、この新年会の日(1月3日)に練習していたディンギーセーラーのお陰で、「こんなところで遊んでいてよいのだろうか」と久々に不安症が再発した。

 

じつは一ヵ月後、この新年会で招かれた同じマンションに引っ越すことになっている。この日と同じ風景を毎日眺めるというわけだ。引越し先を決めるときには、「どうせなら海の見える場所だよ!」という妻の意見に圧されて決めてしまったのだが、そのときはこの僕の“不安症”のことは綺麗さっぱり忘れていた。

 

海とヨットを眺められるオーシャンビューは、普通の人にとっては最高の癒しの風景なのだろうが、僕にとってはモヤモヤと落ち着かない景色になってしまう。

 

僕の場合、風景をみて癒されたいのなら、ベランダからヨットを眺めるよりも、自分でセーリングしながら、海から自宅を眺めるほうがいいのかもしれない。

 

 

 

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