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ディンギーノッてる?(KAZI連載)

 

『どっち顔?』

 May, 2008

 text by Koji Ida

 

 

「どっちに乗りたいの?」

 

470とスナイプの両クラスで運営している大学ヨット部では、そろそろ新入生をどちらの艇種に乗せるか決めなくてはならない頃でしょう。

 

上級生はそれを検討するために、新入生へ冒頭のような質問を投げかけているはずである。

 

これからのセーリング・ライフに一番影響を与える最大の分岐点を迎えることになるのだが、初めてセーリング競技に触れる新入部員にとっては、種目の特徴なんか、まったく区別できるわけがない。

 

全国の大学ヨット部の諸君は、いったい何をもって、このクラス決めをしているのだろうか。

 

 

 

僕が高校でヨット部に入ったとき、当時はFJ級とスナイプ級の二種目である。

 

入部して初めてのセーリングはスナイプ級のクルーだった。6〜8m/sのコンディション。高校2年生の先輩スキッパーは、いまから思えば、素人が命を預けて日本海の荒波の中に飛び込んでいけるような腕前ではなかった。

 

出艇してから数分間、“ハイクアウト”と呼ばれる苦痛しか感じない姿勢を強制され、生まれて初めてのタッキングを試み、当然のように沈をする。

 

センターボード落下防止用ロープの結び方さえ教えてもらっていないので、万有引力の法則にしたがった分厚いアルミ板は、深い海の底へと消えていった。

 

センターがなければ沈も起こせず、レスキュー艇が助けに来てくれるまで、白いハルの上で小一時間ほど漂流体験。

 

そんなヨット部生活のスタートだったので、どうしてもスナイプには乗りたくなかった。その気持ちが神様に伝わったのか、願いどおりFJに乗ることに。FJだったらセンターボードもFRP製だから沈まないし、トラピーズがついているから、あの辛い姿勢(ハイクアウト)からも回避できる。

 

もしも高校で乗るフネがスナイプだったら、すぐにヨット部を辞めていたかもしれない。

 

 

 

大学に進んでからは、入部当初は470級のクルーをしていたが、チーム事情により一年生の秋からスナイプ級へコンバートされた。

 

上級生から「スナイプに移ってくれないか?」と打診があったとき、僕は喜んで承諾した。

 

理由は、470のマストが重たかったから。

 

僕の入った大学ヨット部は、毎朝下級生が制限時間内にマストを立てないといけなかった。制限時間を超えると、お仕置きがある。

 

470のマストは重い上にトラピーズやらトッピングやら余計なものが沢山ついていたので、本当にマスト立てがイヤだった。

 

「スナイプだったらマストが軽くなる、しかもシンプル!」。

 

高校のとき、あれだけ乗りたくなかったスナイプ級なのに、それ以上にマストの軽さに魅かれてしまったのだ。

 

そんな安易な決断のおかげで、現在までの十六年間、ハイクアウトの苦痛に耐えることを強いられている。

 

 

 

新入生が自分で選択できるのか、上級生から強制的に決められるのかはチームによって違うだろうが、多くの新入生は470を希望するに決まっている。

 

言い換えると、ハイクアウトではなく、トラピーズを希望する。遅くて重くて辛いスナイプを希望する新入生は相当変わった人間であり、マレな存在なのだ。

 

という訳で、新入生の希望をイチイチ聞いていては、チームが均等に編成できない。だから僕が上級生のときは、新入生の顔を見て、顔で勝手に決めていた。

 

「470に乗りたい?アホか、お前の顔はスナイプ顔じゃわい!」

 

っていう感じで。

 

結構、いまでも多くの大学ヨット部がこの方法でチーム分けをしていると、僕は確信している。だって、それ以外の方法は思いつかないもの。

 

さあ新入生諸君、運命が決まる日は近いぞ。

 

君の顔は、一体どっち顔に見えるのだろうか。

 

 

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