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ディンギーノッてる?(KAZI連載)
『 日焼けの理由 』 September, 2009 text by Koji Ida
「なぜ、そんなに日焼けしてるんですか?」
いったい僕は今まで、何度 この質問をされたことだろう。
初めて出会う人から。 タクシーの運転手さんから。 三ヶ月に一度しか行かない床屋のオジサンから。
鳥取の生家は、海水浴のできる砂浜まで徒歩5分。 夏の遊び場はいつも海と決まっていた。
小・中学校は水泳部だったので、放課後と週末は屋外プールで過ごした。 高校はヨット部で、殆どエブリデーが海上生活。 大学時代は、琵琶の湖上で こんがりと焼け焦げ三昧
夏の日焼けが落ちる前に、次ぎの夏がやってきた。
そんな僕なので、セーリングのスキル以上に、肌の黒さだけは(黄色人種の中では)誰にも負けない自信がある。
だから、冒頭のように質問されるのも当然のこと。
最初は、「いやー、セーリングっていう競技をやっていてですね」と、真面目に答えていたのだが、いつも一緒では答えるこっちが面白くない。
「肝臓が悪くて」 「現場焼けです」 「実はハーフなんです」 「三週間お風呂に入ってなくて」
などと、(どれもまったくウケないのだが)、そうやってハグらかして回答する癖がついてしまった。
ただ正直に答えない真の理由は、「ヨットやっているんです」と答えたら、「もしかしてボンボンなの?」「君って、お金持ちなんやね」と返してくる人が多いから。
本当にボンボンでお金持ちならいいのだが、僕は住宅ローンと老後の不安に押しつぶされそうなアラフォーのサラリーマン。毎回ジャンボ宝くじの当選発表を見るたびに、人生の不公平さを痛感している。
だから僕は、「お金持ち?」と聞かれたときに、「それは違う」と反論しなくてはならないのだ。
「僕らのやっているディンギーっていう小型艇で活動するヨット部は、フネや道具は学校や県の所有なので、お金はそんなに掛からないんです。確かにヨットを持っている人はお金持ちかもしれませんが、僕たち“乗るだけの人”はどっちかっつーとみんな庶民ですし、まあヨットを買うとしても小さいヨットだから車がもう一台増えるみたいなもので・・・」
といったふうに、長々と説明しないと気がすまない。 そんな自分の性分を分かっているし、質問した側がそこまでの解説を望んでいないことも知っている。
だから僕は日焼けの理由を正直に話さないのだ。
社会人になった今でも、通勤電車の窓に白いワイシャツしか映らないほど、夜の闇と同化する顔の黒さ。
でも、学生の頃は日焼け対策をまったくせずに一日中練習していたが、最近はそうはいかない。
体力も落ち、海上での練習時間はせいぜい1〜2時間が精一杯。顔だけでなく、首や腕など肌を露出する部分に日焼け止めをたっぷりと塗って、それでも翌日にはどっぷりと疲れが出てしまう。
やっぱり加齢の影響なのか、本当に日焼けが辛い今日この頃。でも、こんなに日焼けを避けているのに、なぜか今年も真っ黒な僕。だから冒頭の質問がいつものように飛んでくる。
そんなとき、ふと学生の頃に父親に問いただされたことを思い出した。
「コウジ、俺のほうが色黒いけど、お前ちゃんと練習してるのか?」
当時、僕の父親は郵便局に勤務していて、紫外線は殆ど浴びないオフィスワーカー。なのに、確かに父親の方が色黒い。
その事実が、僕の日焼けの本当の理由を教えてくれた。
だから、いまは答えに困らないし、お金持ちじゃないからと卑屈になる必要もない。
「日焼けじゃありません、遺伝によるジグロです」。 ■
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