|
BACK NUMBER esseys of sailing and life. |
|
|
ディンギーノッてる?(KAZI連載)
『 ディンギーって言いませんか? 』 August, 2010 text by Koji Ida
7月のとある朝。阪神高速5号線。 大阪湾を眺めつつ、お気に入りのFMラジオを流しながらクルマを走らせていると、突然ラジオの向こうのディスクジョッキーさんから、
「みんな、ディンギーって 知ってる?」
そんなセリフが飛び込んできた。
そろそろ長い梅雨が明けようかという頃なので、ラジオで海やヨットの話題が取り上げられるのも不思議じゃない。
けれど、“ディンギー”という少し専門的なフレーズが、ラジオという公共放送で登場してきたことに、僕のココロが新鮮に反応した。
話題の内容は、「こんど大阪北港ヨットハーバーで一般市民向けの無料ディンギースクールが開催されるから、みんなで行ってみたら?」というお誘いだった。
そのまま話の続きを聞いていると、そのDJさんはセーリングの経験をお持ちみたい。
“ヨット”という表現はあまり使わず、特徴的な渋い声色で「ディンギーってね・・・」「ディンギーだとさあ・・・」という具合に、オシャベリの中で“ディンギー”を連続発射してくれる。
そこまで“ディンギー”という呼び方を強調してくれることが僕には心地よく、なんだかすごく嬉しい気分になってきた。
ふと思えば、僕がはじめて出会う人に自分の競技(スナイプ級)を紹介するとき、“ディンギー”という言葉はあまり使わない。いや、絶対に使わない。
だって、ディンギーって言っても、誰も分からないでしょ。
「二人乗りの小さいヨット」とか「エンジンの付いてない競技用のヨット」なんて表現で、聞き手が正しくイメージしてもらえるよう気にしながら説明する。
「ヨット」という単語を使えば、一般の人たちはセールボートだと理解してくれる。でも、それだけだと太平洋横断だったり、アメリカズ杯だったり、サイズの大きいキールボートを連想させるだろう。それはちょっとディンギーとは違うので、ちょこちょこ説明文を付け加える。
自分でも、ちょっとクドイ説明かなと思うのだが、分かってもらうためには仕方がない。でも、ラジオのDJさんは躊躇なく、
「みんな、ディンギーって知ってる?」
と切り出してきた。
そのオシャベリを聞いているうちに僕は、「もっとストレートにディンギーという言葉を使っていいんだ」と気がついた。
僕らディンギー乗りは“ヨット”や“セーリング”だと範囲が広すぎて、相手にどう伝わっているのか不安になる。だから長い注釈をつけてしまう。でも、変に遠まわしに言わなくても、「僕、ディンギーやってます」でいいのかもしれない。
例えば今、スキーのモーグル競技をやっている人が、「普通のゲレンデのスキーとは違って、急で凸凹のコブがある斜面を滑り降り、ターン技術やエア演技やスピードを競うスキーをやっているんです」とは言わない。「モーグルやっています」ですね。
いまフットサルをやっている人が「屋内の狭いピッチで、5人対5人でやるサッカーをやっているんです」とは言わない。「俺、フットサルをやってるんだ」で十分です。
競技の認知度がないときは、そんな回りくどい説明が必要だっただろうが、テレビやラジオで競技名が繰り返して紹介されるうちに、一般的な言葉として認知されてきた。逆に言えば、繰り返して言い続けなければ、いつまでも認知してもらえないのだ。
という訳で、こんなタイトルで何年も連載を続けていながら、ディンギーという言葉を使うのに消極的だった自分が情けないったらありゃしない。これからは積極的に、攻撃的に、アグレッシブに、「ディンギー」を連発してみようと決意しちゃうのです。
「僕、ディンギーやってるんです。 えっ、ディンギーを知らない? ディンギーっていうのはね、ヨットの一種なんだけど・・・」
どうですか、こんなオシャベリ。 なんか、いい感じじゃないですか。 ■
|
|
|
esseys of sailing and life. BACK NUMBER |
|