|
BACK NUMBER esseys of sailing and life. |
|
|
アラフォー帆走生活(KAZI連載)
『 ミスマッチ 』 May, 2012 text by Koji Ida
「実力の差が必ず結果に出ますからね。 言い訳ができないし、そこが面白いんですよ」。
何年か前のこと。僕の知り合いで、マッチレースを中心に活動する若いセーラーが、一対一というレガッタ形式の魅力をそんなふうに語ってくれました。
そうですか。 実力の差が出るんですか。 ヘタクソだったら絶対に勝てないの? ふーん。 だったら、僕には向いてないなぁ。
やっぱり、ヨットレースは勝たなければ面白くない。誰でも、「どうだー!オイラが一番速いんじゃーい」と威張りたい。レース志向のセーラーにとって、表彰台のてっぺんに上り、眼下にひれ伏す敗北者たちを見下ろすときほど、至福の瞬間はありません。
天は、人の上や下には人をつくらないそうですが、レースの結果においては、僕は自分の下に出来る限り沢山の人を敷きつめたい。皆さんも、そうでございましょう。
でも、なかなか勝てないのがヨットレース。 負けた後に出てくるのは、
「スタートで変なフネに邪魔されちゃってさ」 「あんなに風軸が振れるなんて、普通じゃ有り得ないよね」 「最近仕事が忙しくて、ぜんぜん練習してないから・・・」
などなど。
えっとですね、僕はそのときの負け方に最適なフレーズを即座に選択し、最も効果的なタイミングで繰り出すことができるのです。レース暦24年の弛まぬ努力で習得したスキル「言い訳」でございます。決して、「実力の差」などと口走ることはありません。この技術を身に付けると、自分がヘタクソなことに気が付かず、何度負けても次ぎのレースを楽しむことができるんですね。すごいでしょ。皆さんも是非お試しください。
ただマッチレースでは、この自慢のスキルが通用しないということなのです。負けた場合、「君、ルーザー、実力なし」という宣告をノーガードで受け止めなければならない。そんな勇気、僕は微塵も持ち合わせておりません。しかも対戦相手を邪魔しながら競い合うなんて、ピュアで心優しい僕に出来るはずがありません。だって、小さい頃からお祖母ちゃんに「人様に迷惑を掛けーよーなことは、しちゃいけんよ」(鳥取弁)と、教えられてきましたから。
という訳で、このワンonワンのレガッタ形式は、僕には完全にミスマッチなのです。
そんな僕の嗜好とは関係なく、今年の3月には、大学対抗のマッチレースが蒲郡で行われました。それを観戦した知人の話だと、かなり盛り上がったそうですね。五輪でも前回の北京大会から女子の正式種目となりましたし、この競技形式の最高峰といえるアメリカズカップも来年に迫っています。これから国内外でマッチレースが活発化し、関連のニュースや情報が増えていくことでしょう。
まあ、こんな僕も、観戦ならマッチレースを楽しめそうな気がします。観てるだけなら、自分が負けることは絶対に無いんだもん。観覧船に乗るのは面倒くさいので、できれば陸から近いところでレースをやってもらいたい。晴れた週末、心地よい風の中、ビーチや堤防に腰を降ろして、缶ビール片手に2艇のバトルを気軽に眺めるのです。「そこは先にジャイブだろう」「うわっ、えぐいタック。あのスキッパー性格悪いんじゃない」「おーい、オマエ下手くそだから俺様と交代しろー」。酔いが回ってゴキゲンになれば、こんな野次も連発です。
海岸に集まった観客に、決勝の対戦カードと最終スコアを予想してもらい、ピタリ賞には景品を出すっていうのは、いかがでしょう。景品がビール一箱とかだったら、僕、真剣に予想しちゃいますけどね。
マッチレース愛好家の皆様、こんな無粋なギャラリーも大目に見ていただきたい。僕のような、マッチに挑戦する勇気のない弱虫セーラーも、その盛り上がりの輪に入れてもらいたいのですよ。 ■
|
|
|
esseys of sailing and life. BACK NUMBER |
|