BACK NUMBER  esseys of sailing and life.

 Back to index

アラフォー帆走生活(KAZI連載)

 

輪からヨットが消える日』(中編)

 August, 2012

 text by Koji Ida

 

 (前号より)

 

012年6月。

ロンドン五輪の本番直前にIOCの臨時総会が召集された。

 

緊急開催の目的は、政治分野にまで波及したウィンドサーフィン問題の解決である。この席上で、次回2016年のリオ五輪実行委員会より、「セーリングではなく、“ビーチスポーツ”という競技を新設し、その中にウィンドサーフィンを採用してはどうか」という提案がなされた。

 

既存のビーチバレーとトライアスロンに加え、オープンウォータースイム、ライフセービング、ビーチサッカー、ウィンドサーフィンという、砂浜もしくはその海岸沿いで行う競技をカテゴライズし、「ビーチスポーツ」としてリオ五輪で開催する。

 

リオデジャネイロの中心であるコパカバーナをメイン会場とし、このビーチの世界的知名度を上げ、将来の観光ビジネスに結び付けたい。そんな思惑も含んでの提案であった。中国もこれに賛成する姿勢をみせる。

 

普通であれば、次回大会の採用競技が変更できる時期ではないのだが、この中国とブラジルという、世界経済の成長において中核を担っている二大国に対して、経済不安が続く欧州各国は反論できる身の上ではなく、アメリカ以外のすべてがこのビーチスポーツの提案に賛成した。もう五輪と経済は切離しては考えられない関係だ。このとき、ISAFで採用が可決されたカイトボードも、セーリングではなくビーチスポーツに含められることになった。実は国際カイトボード協会(IKA)も、ISAFの支配下となることに違和感を抱いており、裏でIOC委員にビーチスポーツの新設を訴えていたのだ。

 

この臨時総会にて、自らの出身競技であるがゆえに、あえて意見を控えてきたジャック・ロゲ会長。翌年の2013年で任期が満了するため、ややこしい問題に関与して、これまでの経歴に傷を付けたくない。だが、そうやって中立の立場を守りすぎたことで、逆に「会長はISAFを黙認している」と世間の批判を浴びだした。次期のIOC会長選挙は、このロゲ派と反ロゲ派との戦いになり、「セーリング競技を五輪でどう扱うか」が候補者たちの論点となっていく。

 

2020年の開催都市選考についても、「セーリングは実施せず」で会場計画の変更を発表する立候補都市が続出。視聴率が低く、テレビ放映権での収入が見込めないセーリング競技のために、多額を投じてヨットハーバーを建設したくない。当然の成り行きだ。「コンパクト五輪」を売り文句にアピールしていた東京も、ビーチスポーツが追加されたことで開催エリア半径を広げなければならなくなり、そのプランが崩れてしまった。衛生と健康の観点から、環境省と厚生労働省が東京湾内でのオープンウォータースイム開催にストップを掛けたのである。記者会見の場で「じゃあ、全部やめればいいんだろ!」と、いきなり都知事が立候補の取り下げを電撃発表。このようなドタバタでマスコミを騒がせながら、2013年9月、ブエノスアイレスで行われたIOC総会において、イスタンブールが開催都市に決定。同時に、セーリング競技の不採用も正式に確定した・・・。

 

(またも次号へ続く)

 

※この物語はフィクションです。登場する人物および団体の皆さん、僕のことを怒らないでください。

 

 

 

 

 Back to index

 

 esseys of sailing and life.  BACK NUMBER