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アラフォー帆走生活(KAZI連載)

 

月の朝 

 December, 2013

 text by Koji Ida

 

こ最近、不眠症です。

やっと暑く長い夏が終わり、過ごしやすい季節がやってきたというのに、僕は毎朝のように午前4時には目が覚めてしまいます。そして一旦眠りから抜け出ると、前日に遣り残した仕事が気になったりして、二度と眠りの世界へ戻ることはできません。診察を受けたわけではないのですが、これはやっぱり不眠症なのでしょう。

 

僕は昔から大切なレースの前など、夜中に目が覚めると、「第一レースのスタートはどの位置から出ようか? アウター付近か、本部船近くか、どっちにしよう・・・」と、布団の中では絶対に答えが出ないことを考えて、いつまでも眠れないことがよくありました。そのレース本番まで、まだ一ヶ月以上もあるのに・・・。要するに“すごく小心者”というのが、僕が眠れなくなる理由なのです。

 

それでも、朝早く起きることを苦に感じるときはありません。長い年月、セーリング競技という特殊な環境で過ごしてきたせいですね。だって、この国のディンギーレースでは、練習でも試合でも、「じゃあ、集合はお昼からね」なんてことは有り得ません。必ず朝一番に集合で、誰もが早起きを強いられる仕組みになっていますから。

 

ここ数年、ずっと思ってきたことなのですが、僕は11月の朝、なぜか緊張してしまいます。東の空に太陽が昇るころ、そのときに身体で感じる気温や湿度。それらの感触で、季節の変化に気付きます。そして、その同じ空気を感じたときの記憶を思い出すのです。それは、大学の頃のインカレの朝だったり、社会人になってから最初の全日本選手権だったり。

 

早朝のキュッと締まった空気のにおいと、大切なレースに挑むときの感情がリンクして、鮮明に記憶されているのです。朝露で湿ったオーニングをフネから剥がし、セールを揚げて、ジブ張りにテンションを掛ける。緊張で吐き出しそうな気持ちを自分の中に押し殺して、静かに集中を高めていく。あのときの記憶が、朝の空気と一緒によみがえってくるのです。そんな人、僕以外にも沢山いるのではないでしょうか。

 

折りしも、この原稿を書いている翌日から、全日本インカレの団体戦がうちの近所のヨットハーバーで行われます。先週くらいからトレーラーに積まれたディンギーが街にどんどん入ってきて、我が家のベランダ越しに見えるレース海面には、数え切れないほどの白いセールが帆走っています。いま、ここに集まっている若いセーラーたちも、20年前の僕らと同じように、張りつめた気持ちで朝の空気を感じているのでしょう。

 

兎にも角にも、不眠症のせいで無駄に早起きしてしまい、日の出と同じくらいの時刻に出勤する今日この頃です。自宅マンションのある埋立地から渡る橋の下には、係留されたクルージングボートのマストが並び、顔を出したばかりの朝陽が水面に映ってキラキラと輝いています。

 

こんな素敵な景色が見られるのも、不眠症のお陰かもしれません。もうしばらく、このままでいるのも悪くない。だから奥さん、僕の不眠症のことはあまり心配しないでくださいね、体調もそんなに悪くはありませんから。

 

「はぁ? 毎晩9時に布団の中でイビキ掻いているアナタの、一体全体どこが不眠症なのよぉ?」

 

と、呆れ顔の奥さん。えっと、そうですね。そう思えば、毎日ちゃんと7時間の睡眠をとっているのですね。僕が不眠症という発言、撤回させていただきます。

 

 

 

 

 

 

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