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アラフォー帆走生活(KAZI連載)

 

『 就活セーリング 

 July, 2014

 text by Koji Ida

 

 

「マズイ、このままだと本当にマズイぞ」。

 

とうとう、ここまで時代の波がやってきたのか。

どの分野においても、技術の進歩や流行の浮き沈みは市場に変化を与える。形状記憶のワイシャツが登場してからのクリーニング店。ブラウン管テレビの製造工場。うごめく経済の中では、それまで必要とされていたものが突然と新しい何かに置き換えられ、居場所を失っていくのだ。それはセーリング界でもしかり。そしてまさしく、いまの僕がその立場に追い込まれている。

 

いまから15年ほど前に飛び込んだキールボートの世界。最初の2〜3シーズンは、ディンギーでの競技活動と平行しながら、積極的にチームの練習やクラブレースに参加しておりました。しかしながら、結婚して子供が生まれてからというものは、毎週末をヨットに費やすわけにはいきません。いつの間にかキールボートには縁遠くなり、最近では年に数回のレースイベントに参加させてもらう程度。若いときに習得したクルーワークも、時間の経過とともにどんどん忘れてしまいます。いまのところ、アフターガイ(スピネーカーの風上側のシート)のトリムは少し覚えているので、そのポジション限定で乗せていただいている状況なのです。

 

ただ、それも去年までのお話し。昨シーズンの後半に、いつも御世話になっているチームに新艇がやってきました。なんと、そのニューボートにはスピンポールがありません。代わりにバウスプリットが搭載され、巨大なジェネカーでダウンウィンドをかっ飛ぶのです。これが最新ヨットの流行りなのですね。僕がこれまで担当していた「アフターガイ」と呼ばれるシートは、「タックロープ」というものに入れ替わりました。タックロープだと、上マークを回ったときに引いて固定する、下マークを回るときに切る、それだけ。この最新偽装の導入により、僕にできる唯一の仕事が、艇上から綺麗さっぱり消えてなくなったのです。がびーん。マズイぞ。このままじゃ僕は完全にリストラ対象じゃないか。

 

でもですね、これも自業自得のボディから出たサビ。若い頃、もっと自主的にフォアデッキの仕事も覚えるべきだったのに、「フネの中でスピンをパックするのって、船酔いするから嫌だよ〜ん」と、ずっと後ろのほうで隠れていたのです。だって僕、小学生のときのバス遠足でも酔いましたからね。

 

だけど、もう背に腹は代えられない。ただでさえキールボートに乗る機会が少ないのだから、リストラなんかされてなるものか。というわけで僕は「次のレース、マストハンドに挑戦しまーす」と高らかに宣言。この前向きな姿勢で、新しい自分の居場所をつくるのだ。でもスピンパックのやり方なんて今さら他人に聞けません。ですから、会社帰りに本屋さんで、「クルーワーク虎の巻」(解説:高槻和宏/監修 高木 裕、舵社2002年発売)を立ち読みして予習。チーム内での再就職活動に、必死のパッチでございます。

 

そうして、一夜漬けの努力で迎えた本番の「関西ミドルボート選手権」。慣れないポジションで無駄な動きが多いのか、身体中が青あざと擦り傷だらけ。だけど頑張るのだ、レースの後には美味しいビールが待ってるぞ。リストラ回避のために自分で自分を励まします。そしてレースの合間に、揺れるフネの中でのパッキングを初体験。予習(イメトレ)したとおり、セールをさばいて、パックに詰めながら・・・。えっと、ありゃりゃ、取りこみシートがぐるんぐるんにジェネカーに巻き付いて、なんじゃこりゃ。あーもう嫌だ。うぷっ、なんだか気持ち悪いぞ。おぇっ、おえぇぇぇぇぇぇ。(お食事中の皆様、ごめんあそばせ)。

 

えっと、どなたか僕の就活のために、よく効く酔い止め薬を紹介してもらえませんでしょうか。■(文中敬称略)

 

 

 

 

 

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