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アラフォー帆走生活(KAZI連載)

 

『 辞令はサドンリー 

 October, 2014

 text by Koji Ida

 

 

の鳴き声が減り、秋の入口を感じ始めた八月の終わりごろ。

勤務先(大阪)での残業中。

上司に「ちょっといいかな?」と声を掛けられた。

 

何の用件だろう。

とっても優秀で利口な部下(僕)に、なにか仕事の相談でもあるのかしら。呼ばれた理由が思いつかないまま、上司とふたりで狭い会議室へ。

 

「イダくん、辞令や。十月から博多へ行ってくれ」。

 

えっ、うっそー、なにそれ?

あまりにも突然な通達に、心臓の鼓動が高鳴り、頭がぐるんぐるんと回ります。

 

いまの会社に勤めて二十年目。僕が働いている販売部門は、たしかに転勤の多い部署だ。しかしながら、実業団ヨット部で活動していた僕は、レースで そこそこの成績を残せていたこともあり、人事的な配慮をいただいて転勤を免れていた。数年前から公のレースには出場しなくなったけど、いまでも僕はヨット馬鹿の不良サラリーマン。天気予報で いい風が吹きそうだったら、すぐに会社を休んじゃうんだから。こんなダメ人間を受け入れてくれる部署はない。リストラはされても転勤はありえない。そんなふうに高をくくっていたのだ。

 

それなのに今回の転勤辞令。

僕のハートは素直に受け止められない。

いやだ、イヤだ、嫌だ。

 

せっかく西宮のハーバー近くに暮らし、海と風とセイルボートに囲まれる生活を満喫しているのに、なぜ博多に行かなくてはならないのか。

 

これまで、ヨットレースでは自分の進むコースは自分自身で決めてきた。(えっと、たまにクルーの意見も聞きましたけどね)。それゆえに、自分の住む街を会社に勝手に決められることが、どうしても納得できない。

 

だいたい、博多に何があるっていうんだ。

博多にあるものと言えば、中州の屋台、とんこつラーメン、モツ鍋、水炊き・・・。

 

あのー、行きまっす。

お願いしますから、博多に行かせてくださーい。

 

 

というわけで、十月から博多の街に住むことになりました。家族は来春に呼び寄せるので、半年間の単身赴任です。博多の皆さん、これからお世話になります。何卒よろしくお願いいたします、ぺこり。

 

 

 

それにしても「転勤」が、これほどサラリーマンの生活に衝撃を与えるものだとは。告げられて初めて知りました。

 

僕が最初に考えたのは、当然ながら家族の引越しや子供たちの転校問題だ。その後にくるのが、これからヨットはどうしよう・・・という悩み。

 

いま芦屋のハーバーに置いているレーザーを博多まで持っていくべきなのか。新しい勤務地での仕事や生活に慣れるまでは、ヨットどころではないかもしれない。いっそのこと、セーリングという趣味をあきらめようか。きっと多くのサラリーマン・セーラーが、転勤を切っ掛けに僕と同じように悩み、ヨットから離れてしまったのではないかと想像する。

 

そんなことを考えると、なおさらセーリングを辞められない。転勤ごときで諦められるのなら、そこまでの魅力しかないスポーツと思われてしまう。それを否定するためにも、乗り続けなければならない。これから博多の海で、九州のあちこちの海で、僕は思いっきりプレーニングを楽しんでやるのだ。

 

というようなことを決意し、引越しで博多へ向かう新幹線の中で、この原稿を書いております。いま小倉駅を通過しました。博多に着いたら、まずはラーメンを食べよう。■

 

 

 

 

 

  

 

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