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アラフォー帆走生活(KAZI連載)
『 クスリの使い方 』 April,2016 text by Koji Ida
スポーツ界が薬物問題で大きく揺れている。 昨年に発覚したロシア陸上連盟の組織的ドーピング。 とても残念でしかたがない。 自らの体力、技術、精神を限界まで鍛え、それをルールの中で正々堂々と競い合うのが競技スポーツの魅力であり、美しさなのだ。 だからこそ、その姿は観る者を魅了し、大きな感動を与えてくれる。 そんなこと、いまさら僕が言うまでもない。
ドーピング問題は過去から繰り返され、いまだ撲滅には至っていない。ランス・アームストロングに代表される自転車ロードレース界の事件。1990年代の中国陸上長距離“馬軍団”や競泳女子の問題。 前回のロンドン五輪でも多くの選手がドーピング違反で失格処分を受けている。 商業オリンピックの口火を切ったロサンゼルス五輪以降、競技選手のプロ化は進み、アスリートたちは成功することによって巨万の富を得ることが可能になった。 綺麗ごとだけでは、それを手にすることは難しい。 そんな選手の弱い心につけ込むコーチや、違法薬物を提供する医師たちが存在し続けている。 スポーツ界の暗い闇の部分だ。
振り返って、セーリング界はどうだろう。 僕は過去にドーピング違反で失格となったセーラーを知らない。 そりゃそうだ。 ヨットレースの成績がよくなる薬なんて聞いたことがない。 もしもハイクアウトの苦痛をやわらげる薬があれば、ちょっとだけ興味が湧いてしまうが、それだけでボートスピードが向上するわけではない。 薬の効用で身体能力や精神状態のパフォーマンスを引き上げたって、ヨットレースの結果には直接的に影響しないのだ。 ゆえに、セーリング競技はドーピング違反の起こりにくい種目と言えるだろう。
しかしながら、“道具のドーピング”という問題が残る。 数あるスポーツの中でも、セーリング競技は道具(ヨット)の良し悪しが成績に大きな影響を与える種目だ。 だからこそ、優秀なセーラーはフネの整備やチューニングに余念がないのだが、ここでインチキをして、規格以上のスペックを出すことも可能といえば可能だ。 大会計測員の目を誤魔化せばいいだけなのだから、違法薬物を服用するよりも身体にとっては遥かに安全で、結果への効果もある。 他競技のドーピング常習国が、セーリング競技においても道具のドーピングに手を染めていないだろうか。 そんな不安を抱いてしまう。
幸運なのか、残念なのか。セーリング競技というマイナースポーツでの成功は、その後の人生をなにも保証してくれない。 野球やサッカー選手のように、巨万の富を得られるわけではない。 なので、ドーピングやルール違反までして、結果のみを求めることに意味はないのだ。 結果もたしかに重要だが、そこまでの過程に、より意味や価値があると思う。 元プロ野球選手、清原和博容疑者の覚せい剤取締法違反での逮捕事件も、ショッキングな出来事だった。 クスリとは病を治すために使うものだ。 違法薬物や覚せい剤は、そのとき一瞬の目的は果たせるかもしれないが、逆に病を増やし、身体や精神を蝕んでいく。 だから決して、クスリの使い方を間違えてはいけない。
もう一度繰り返す。 クスリとは病を治すために使うものだ。 この原稿を書く前日に、僕はインフルエンザに掛かってしまった。 でも病院での検査結果は陰性で、インフルエンザ用の薬を処方してもらえない。 昨夜は体温計が39.8度を示す。 どうか僕に薬を、薬をください。■
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