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[column]  鷸が跳ぶ

 

004 「庶民のヨット」

text by Koji Ida

 

 

 

ットのイメージ。壮大で、爽やかな、清々しい、お金持ちのスポーツ。そう、ヨットはお金持ちのスポーツ。実際に、お金がなくては出来ないスポーツである。私は絶対にヨットをやるのが嫌だった。それは、私もヨットを始めるまでは、一般の人達と同じようにそう思っていたからである。お金を持っていない人間が、お金を持っている人間と同じことをするのは不自然である。郵便局員の次男として育った私が、ダンスパーティーに行くのは不自然だし、乗馬クラブへ通うのも不自然だし、オペラを観に行くのも不自然だ。ヨットを知る前の私は、同じようにヨットをすることを不自然に感じていた。

 

古い感覚かもしれないが、日本人にとっては、ある意味“貧しさ”が美徳になっていたと思う。スポーツ界でも、いやっ、スポーツ界こそ、貧しさが美徳として植え付けられているかもしれない。星飛馬や矢吹ジョーがお金持ちだったら、あのドラマは成立しない。タイガーマスクが生れた時から裕福だったら、プロレスラーにはなっていないだろう。貧しいが故に、ハングリー精神を糧に成長していくヒーロー達に感動したのである。

 

 

しかしながら、ヨット競技というのは、お金を持たない人間にはナカナカ継続しにくい特性を持っている。ボートやセールの購入、その保管費用、レースの際の遠征費などなど。私の場合は、企業ヨット部に所属している為、費用的な面では比較的楽に競技を続けてこられたと思う。もともと就職先を決める際に、「スナイプが続けられる」ということを第一条件に考えたので、それなりに希望通りの人生を送ることが出来ている。会社からの援助は十分とは言えないが、援助してもらえるだけで有り難い。毎年のレース用セールや偶に欲しくなるマスト等のハード類は、自身の収入で負担することが出来る範囲である。結婚し、お小遣い制度が我が家でも導入されてからは、かなり厳しくなってきたが・・・。

私の場合、貧しいからスナイプを続けているのか、スナイプを続けているから貧しいのか、その辺は定かではない。しかしながら、自身の収入範囲で出来るヨット、ということでスナイプを選択しているところもある。キールボートのレースにも参加するが、マストを折っても自分で弁償できる範囲じゃないので、舵を持つことには気が進まない。弁償を要求するオーナーさんは居ないが、自分で責任を取れる範囲の方が気が楽である。

 

海外のスナイプ選手に目を移すと、やっぱりお金持ちが多い。聞いてみると、自身が高収入の職に就いているか、もともと生家がお金持ちか、という選手が殆どである。スナイプが盛んな海外諸国には、日本のように学校教育としてのヨットはそんなに普及していない。高校や大学の運動部で始めるのではなく、地元のヨットクラブの会員となり、自身がボートのオーナーとなって、活動を続けている。ある意味、それが自然な姿なのかもしれない。しかしながら、私が日本以外で生れていたのであれば、ヨット競技を始めることは出来なかっただろう。高校や大学、または都道府県のセーリング連盟の費用でヨット競技を始められる日本のシステムは、庶民にとっては非常に素晴らしいものだと思う。

 

 

の希望として「ヨット=お金持ちのスポーツ」というイメージを早く無くして欲しい。「ヨット競技をしています」と自己紹介する度に「いいね〜優雅で、リッチだね〜」と返される。私は優雅に乗ってる訳じゃないし、リッチでもない。もう、この手のやり取りに疲れてしまった。ヨット一般のイメージを変えることは難しいと思うが、レーザーやスナイプなど、船齢の古くなった中古艇でも、新造艇とそんなにパフォーマンスが変らない艇種であれば、「庶民のヨット」として普及させることが出来るのではないかと思う。実際に、日本でこの競技に取り組む選手は、庶民ばっかりだし・・・。

 

中古艇情報やハーバーのバース料金情報など、少しでも安くボートを維持できるように情報を共有できれば、大学を卒業したあとでも、スナイプを続けようと考える選手が増えるのではないか。中古艇情報が、どこかのHPに写真付きで紹介されていれば、購買意欲も湧き易いであろう。保管費用も、月に数回呑みに行くのを控えれば、補える範囲である。私も最近、ケーブルテレビとWOWOWの契約を中止した。ボクシング解説でのジョー小泉氏の駄洒落が聞けなくなるのは大きな痛手であるが、スナイプを続ける為には仕方がない。艇の入手と置き場の確保が出来、あとは普通に働いていれば、なんとかなると思う。

 

在、スナイプを始める人の大多数は、大学ヨット部を経験した人達であろう。それらの人達が、卒業後も競技を継続できるような環境づくりが求められると思う。逆に、スナイプを続けたい人は、それなりの覚悟をしてもらいたい。¥1も遣わずにヨットを続けることは殆ど不可能である。学生の時と同じように競技を続けたいという希望は虫が好すぎる。やりたいことにお金を遣うのは当然のことなので、やりたいことをやる為に、日々働いて欲しい。実際に、企業ヨット部などに所属しなくても、自身で艇を購入して、競技を継続している選手は沢山いる。そんな人がもっと増えれば、スナイプの世界はもっともっと面白くなるだろう。庶民が頑張ってこの競技を続けなければ、いつまでも庶民のスポーツにはなり得ない。頑張ろう、庶民ども。■

 

 

 

 

 

 

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