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[column]  鷸が跳ぶ

 

006 地球の裏からボンジーア

その壱「道具は関係あるの?」

text by Koji Ida

 

 

 

ラジルに行ってきた。飛行機で片道約30時間という、恐ろしく苦痛を伴う遠征である。タバコは吸えない、寝心地は悪い、しかも機中のアルコールは有料。こんなに辛い想いをして行くのであるから、何かを掴まなければ勿体無い。目的地はスナイプ王国である。きっと何かがあるはずである。その何かを探すことと、日本に帰ったら禁煙すること。この二つが今回の遠征の目的であった。この原稿を書いている時点で、まだ禁煙は続いている。目的は達成できそうだ。

 

今回、筆者達ペアはチャーター艇にて西半球選手権に出場した。ブラジルの「DIEMER」というビルダーの艇。別名はレモン。社長ディメールさんのニックネームらしい。

この艇のコンセプトは「ピアソンのハルライン」と「グラエルのコクピットデザイン」らしい。ハルラインについては良く解らないが、コクピットデザインは、デッキが低く、ラウンドしていて、筆者は非常に乗り易い印象を受けた。だが筆者以外で、このビルダーを借りた日本人選手達は、筆者のクルーも含めて、イマイチの感触だった模様。ガンネルは未だにウッド製であり、ケースで衝突してもバンパー代わりになって、ショックを吸収してくれる。筆者が借りたボートも、借りる数時間前にケースでガンネルが抉り取られていた。大会期間中、ガンネルがモゲたまま。艇番は「30064」。結構新しくて良かった、と思っていたのだが、実物を見ると結構ボロボロ。なんでこんな短期間でボロボロに出来るのだろうと不思議に思う。相当に練習しているか、相当に扱いが適当か。後者である可能性が大。

 

ブラジルでは、このDIEMERかピアソンの2種類が殆どである。マストはDIEMER製かサイドワインダーのスタンダードorゴールド。プロクターは殆ど存在しない模様。理由は多分、プロクターの流通網が存在しない為。敢えて皆がプロクターを選んでいないということでは無いと思う。

 

IEMERは、サイドステーチェーンプレートの位置が、ピアソンよりも左右に広く、前方に取付けられている。しかしながら、DIEMERだろうが、ピアソンだろうが、彼等のセッティングの仕方は余り変化が無さそうだ。筆者達も自分なりにDIEMERをセッティングしようと試みる。チャーター艇のオーナーが「スプレッダーは借り物だから、自分のがあるなら交換してくれ」と言ってきたので、持参したものに取替える。取替えながら「誰に返すの?」と聞くと、「パラデダだよ」とのこと。その言葉を聞いた途端にメジャーで図って同じ長さにセッティング。ブラジル入りするまで、ずっとスプレッダーの長さをどうするか悩んでいたのだが、あっという間に悩みが解消した。ありがとうアレックス。

ブラジルの選手は、スプレッダーの長さは皆ほとんど一緒みたい。艇がなんであれ、体重がどうであれ。多くの場合、マストの真横付根からスプレッダー先端のシュラウド位置まで、420〜430mmくらいと思われる。ディフレクションについては、パラデダは結構気にして、風域毎に調整しているが、今大会準優勝のワンダレーなんかは、全く気にしていない。すっごく適当である。

 

日本選手は、皿澤ペア以外がDIEMERをチャーター。結構準備が大変であった。内田ペアの艇は海水がジャブジャブ入るし、松崎ペアは持参したマストのシャーラインが違ったから、現地でニューマストをカットオフ。森田ペアはマストもDIEMERで、セッティングして「さあ出艇!」と上を見上げたら、スプレッダーの開き方が違う。元々サイドに曲がっているのだ。マストを倒して強制したり、サイドステーの詰め方を左右同じにせずに調整したり・・・。これじゃあ満足いくスピードは出せない。「可哀相に・・・」と思いながら、自艇を見上げると、自分のマストもちょっと横に曲がってる。ガビ〜ン。見て見ぬ振り。変な不安が生じないよう、大会期間中クルーには黙っていた。

 

と、皆さんも聞いたことがあるかもしれないが、ブラジルの艇には、ジブカムが無い。厳密に言えば、風上側のデッキ上に、ジブカムとして使用できるカムは準備されているのだが、どう見ても使えない。筆者のクルーも日々ヒィーヒィー嘆いていた。ラチェットブロック(大)にジブシートがリードしてあるだけで、リーチコントロールは、上下可動のバーバーホーラーによるシステムが一般的。だが、艇によってはバーバーホーラーさえも付いていないものもある。ジブシートを引く角度は一方向だけ、ということである。しかも、このシステムを採用しているのは、準優勝のワンダレー。彼曰く「シンプル イズ ベスト!」。ヨットを速く走らせる為の基本理論からは確実に外れている、確実に間違っている、と筆者は思う。しかしながら、ヨットレースで勝つ為の原則には、適合しているのかもしれない。

 

セールは、本大会上位2チームがオリンピックセールを使用。浅めのデザインで、結構良さそう。サイドワインダーの固い系マストに、浅めのシェイプを採用するのが、新しい流れのようである。3〜5位はアルゼンチン・ノース。南米では結構流行っているようである。クァンタムはアメリカチームが主に採用していたが、結果は出せなかった。スザボはニューコンセプトを持っている模様だが、今回には間に合わず従来までのものを使用。ジャパン・ノースのニューラジアルカットが、結構周囲の注目を浴びた。スナイプのメインセールでラジアルを採用しているメーカは現在ないので、これからの開発競争が楽しみだ。

 

も、道具って関係あるのだろうか。筆者が思うに、パラデダやワンダレーが、どこのビルダーに乗ろうが、どのセールメーカーを使おうが、結局速いんだと思う。彼等が来年ワールドに来て、何の苦も無くオクムラでトップを快走していそうに思う。昔、筆者も一時期「どこのモノを使えば、速くなれるのか?」と悩んだ頃があった。しかしながら、必要なのは「どこのモノを使っても、速く帆走れる技術」なのである。その技術が身に付いてこそ、道具の優劣も見極めることが出来る。

 

こういう風にセーリング競技のことを考えられるようになった。このことだけで、今回の遠征の目的、禁煙以外のもう一つの方を達成できたような気分である。■

 

 

筆者がチャーターしたDIEMER

 

 

 

DIEMERの偽装は非常にシンプル

 

 

 

 

優勝したパラデダ艇のジブシステム

ラチェットが左右にスライドし、バーバーで上下調整できるようになっている。

デッキ中央にあるのが、メイン&ジブ兼用のカム。

 

 

 

最近の殆どの艇がフォアステーにチェンプレートを付けて、上下調整が出来るようにしている。

レーキセッティングを変えた際に、それにリンクして調整する。写真はパラデダ艇。

 

パラデダ艇のスプレッダー。

ディフレクションは蝶ナットで、レースの合間でも簡単に調整できるようになっている。

 

 

 

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