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速い奴が勝つに決まっている。その速さを求め続けることによって、世界へ挑戦する。周囲から見れば、遠回りにも見えるその道程の行き先には、求め続けた人間にしか見えない境地が待っている。
text by Koji Ida photographs by Koji Ida /Gusty Photo Service |
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絶対的なスピード。それさえあれば、レースを支配できる程の絶対的なスピード。世の中にある「レース」と呼ばれる競技スポーツにおいて、それを手にすることが勝利への一番シンプルな答えである。F1であれ、Moto−GPであれ、競泳であれ、短距離走であれ。 「速い奴が勝つ」 ヨットレースにおいても当然の答えであり、誰もが最速を求める。多くの選手は、その絶対的なスピードが手に入れられないからこそ、スタート技術やタクティクスを身につけて、より速い相手に対抗しようとする。しかしながら、そんな妥協的な手法ではなく、結果に対しては遠回りでも、直接的な答えである「最速」を求め続ける人間がいる。
松崎選手は、岐阜県立海津高校にてセーリング競技を始める。校名からくるイメージとは正反対の海無し県の池で、ヨットに初めて触れることとなる。「広大な海で」、「優雅な」という、一般的なヨットのイメージとは全く異質のヨット。完全なる競技スポーツとしてのヨットである。狭い池の中、タックとジャイブを繰り返すしかない練習環境で、徹底的に基礎を叩き込まれる。その基礎の追求により、3年時にはインターハイで3位、そして国体で全国制覇を成し遂げる。日本大学でも常勝校のスナイプチームのエースとして、全日本インカレ等で活躍。卒業後は実業団ヨット部のある豊田自動織機へ進む。 |
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全日本スナイプ選手権の上位選手は、翌年の国際大会へ日本代表選手として出場資格を得る。世界選手権であれば8位まで(99年スペイン大会までは4位)、西半球選手権であれば5位までであり、その中に入るのが、選手達のひとつの目標となる。松崎選手は、周囲からは十分に実力を認められていながら、その枠の中にいつもギリギリで入ることが出来なかった。しかしながら、99年のスペインワールドの時に、上位選手の辞退により出場資格を得る。結果は36位と振るわず、海外のトップ選手達との『スピード差』を目の当たりにする。だが、その体験により、松崎選手の速さへの欲望が膨れ上がる。02年の西半球選手権ロングビーチ(USA)大会では、日本人選手最高の9位となった。昨年のスウェーデン世界選手権では、チャーターボートが自身の希望するビルダーと異なった為に調子を崩したが、今年もブラジル、リオデジャネイロで開催される西半球選手権への出場権を獲得し、着々と準備を進めている。世界へ挑戦する為に、なかなか超えれなかった国内での壁が、一度世界との差を体感できたことにより、安定して超えられるようになった。今は新たな「世界の壁」を超える為に、更なるスピードを手にしようとしている。
松崎選手の一番の特色は、強風下でのリーチングのスピードにあると筆者は思っている。国内で、右に並べる選手はなかなか存在しない。他の風域でも、クローズやランニングの角度でも、速いことに変りはないのだが、その中でも順風以上、そしてリーチングが特に速い。強風のリーチングが速いというのは、セッティングやセールの優劣ではなく、スピード感覚とハンドリング技術が優れているということである。感覚と技術。この二つが身に付いていてこそ、はじめてセッティングやセールチョイスが活きてくる。 もう一つの特色は、ハードやセッティングに関する豊富な知識と、その知識に基づいた“ベスト”を徹底追及する姿勢である。何か選択に迷ったときに、松崎選手に答えを求めるトップ選手も少なくない。筆者もその中の一人である。 松崎選手の口から発せられる言葉には重みがある。 「ヨットは速さじゃない、(経験の) 長さだよ。」 「求めるのは、技術の高さじゃない、(技術の) 幅だ。」 そんな話を冗談交じりで話してくれる。頼もしき、日本チームのリーダー的存在である。 |
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昨年の11月、全日本インカレを観戦する目的で、松崎選手が家族連れで西宮に来られた時に、無理矢理誘って筆者の家に一泊して頂いた。夜のスナイプ談義が進む中、全室禁煙の我が家では、喫煙者は狭いベランダに押しやられる。松崎選手とふたりでホタルの光を燈していると、 「あのさぁ〜、今度の28〜30日に博多で合宿したいんだけどさぁ〜、カミさんが許してくれないんだよね。お前から説得してくれよ。」 と依頼される。宴の席に戻り、筆者は松崎夫人、由紀子さんへの説得交渉に入る。 「やっぱり合宿は必要っすね!許してあげて下さいよ。」 と筆者は切り出す。そうすると由紀子さんは、 「年末のそんな忙しい時に、許せる訳ないでしょ〜」 「・・・」 筆者は言葉を失った。 松崎選手の言う「28〜30日」は、11月の月末ではなく、まさしく年末だったのである。これには筆者の予測も追い付かなかった。家庭を持った一児の父親が、大晦日直前に、普段は家に居ないサラリーマンが家庭に貢献できる数少ない機会である年末の休暇に、ヨットの合宿へ、しかも自宅から遠く離れた博多湾なんかへ行かせてもらえるはずがない。それが世間一般での常識である。 筆者は即座に説得を諦めた。 その年が明けて、正月を過ぎたある日、本田技研熊本の森田選手から連絡があった。 「年末の松崎さん達との合宿、勉強になりましたよ!」 「・・・」 筆者は、またも言葉を失った。
常識を覆す行動を取るものだけが、常識を覆す結果を出すことが出来る。巷に見られるような、言葉だけでの根性論ではなく、熱い気持ちをしっかりと行動で表現する。夫人の協力による食事療法で、肉体改造にも取り組む。自らの身体を、最速を実現させる一つのパーツへと変換する為に。
このオフシーズン、松崎選手は新たなるスピードを求めて、セール開発を中心に準備を進めてきた。ゴールデンウィークに博多湾で開催された西日本ヨットウィークで優勝し、その成果が結果として現れて来ている。最終的な成果は、ブラジルでの西半球選手権、そして地元蒲郡で開催される今年の全日本選手権で発揮されるであろう。誰よりも速く走ることを、誰よりも求めている。最速への答えが、松崎選手には既に見えているのかもしれない。■
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松崎 茂 Shigeru Matsuzaki 海津高校ヨット部でスナイプを始め、3年生時には国体で優勝。日本大学ヨット部から豊田自動織機へ。99年スペインワールド、2002年ロングビーチ(USA)西半球、2003年スウェーデンワールドにて日本代表。今年も、ブラジルでの西半球選手権に出場する為、着々と準備を進めている。1968年生まれ、171.5cm 63kg |
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