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 sailors file 008

 

圧倒的な実力で、全日本スナイプ二連覇を達成した。誰も止めることのできない勢いで、タイトル獲得を妨げるものは、すべて蹴散らしていく。彼の強さと海での形相は、まさに鬼神の如し。しかしその優しさ故に、単なる鬼には成りきれない。優しさという顔を隠した阿修羅となり、加原和洋は世界へ挑む。

 

text by Koji Ida

photographs by Koji Ida

/Gusty Photo Service

 

レース目のことだったろう。2001年、境港で行われた全日本スナイプのとき、8〜10m/sのコンディションでのアップウィンドレグ。筆者ペアは、イエローデッキのスターボ艇の二艇身前を横切る。そのとき、イエローデッキのヘルムスマンが「よけましたからね、抗議しますよ!」と叫んできた。活きのいい学生が出てきたなぁ、と感心したのだが、そんなので抗議されても堪らない。陸に上がってから、抗議の意志を確認しにいく。すると「うそっす、すみませんでした」とペコペコ頭を下げてきた。海の上での勢いと、見た目の形相とは正反対で、必要以上に腰が低く、表情はオドオドしている。意気込んで向っていった筆者の方が、拍子抜けしてしまう。

 

大のOB達に聞くと、その学生は未だ二回生だという。強風の帆走りは、一昨年まで高校生とは思えない安定感と力強さ。こんな少年が出てくるなんて将来すえ恐ろしいね、と選手達の間で話していたのを思い出す。二年後、その少年は青年となり、筆者たちの予想を越える成長を遂げていた。

 

2003年、江ノ島での全日本スナイプ。台風の影響で、アベレージ10m/sのコンディション。久々の強風シリーズでは、経験と体格に勝っている実業団チームが有利となるはずである。しかしながら、周囲は薄々気づいていた。レースが始まる前から「加原が行くんじゃないか」という雰囲気が出来上がっていたのだ。大会前から勝つ雰囲気を創れる選手が、久しぶりに現れた。しかも、現役の学生という若さで。日本のスナイプ界は、彼の出現を待っていたのかもしれない。加原和洋の出現を・・・・・・。

 

昨年の全日本インカレのとき、彼も筆者も、母校のコーチという立場で再会する。ハーバーで彼と目が合うと、すくすくと近寄ってくる。

 

「僕の取材、まだっすか?」

 

恐い顔、優しい性格、目立ちたがり屋の本性。

加原和洋よ、きみは一体何者なのだ。

 

「来週の全日本スナイプで、二連覇したら取材に行くよ」

 

もしかして本当にするのかなぁ、と思っていたら、圧勝で二連覇達成。おいおい、博多までの交通費、誰が払ってくれるんだい。軽はずみに取材の約束なんて、するものではないようだ。そんな後悔をしながら、どうしようかと考える。そしたら一週間後、筆者の携帯電話に加原選手から着信が入る。

 

「僕の取材、まだっすか?」

 

・・・・・・・・・。

加原和洋よ、きみは一体何者なのだ。

 

の生まれ育った牛窓では、その流れが止まったかのように、静かに時が刻まれていく。そんな環境で、ゆっくりと熟成された原石が、厳しい博多湾で研ぎ澄まされることにより、その年齢に似合わない実力を身につけた。今年は、出身地で開催される岡山国体を目指して、470のハーネスをまとう。全日本スナイプを二連覇しても飽き足らず、国体優勝と蒲郡ワールドのタイトルまでも欲している。過去の栄光に立ち止まったりはしない。更なる上を目指す為に、現在の自分を虐め続け、未来の自分を高めようとしている。加原選手の手は、二つのタイトルを掴んだ後でも、まだ他のものを掴む手が残っているようだ。

 

海上にいるときの彼の表情には、勝利に対する鉄の意志が浮かびあがっている。風の変化やボートスピードの変動を、一瞬たりとも見逃しはしない。マーク回航順位や、たった1レースのフィニッシュ順位で、一喜一憂したりはしない。笑顔を見せるのは、最終日に表彰台へ立つときだけでいい。その鉄の意志を、海上で維持するが故に、陸の上ではあんなに優しい性格をしているのではないだろうか。海で鬼になる為に、仏のこころでチカラを蓄えている。

 

日本のセーリング界に、戦いの神の化身が現れた。その暴力的なまでの強さで、海上のライバル達を焼き尽くす。その数多き手で、すべてのタイトルを掴み取ろうとしている。インド神話では悪神とされ、仏教では常に戦い合う世界の存在ともされる阿修羅。彼の強さは、敗れていく者からみれば、憎き巨大な悪である。その悪に、自身の優しさが故に耐え切れず、陸の上では善の顔を必要以上に装おうのかもしれない。しかしながら、彼は常に戦い合う世界の存在。その本性は隠せない。世界の海に戦いを求めて、加原という阿修羅が加速していく。■

(文中敬称略)

 

 

 

加原和洋 Kazuhiro Kahara

 

1981年生まれ。9歳からセーリング競技を始め、中村三陽高校から福岡大学ヨット部へと進む。大学からスナイプを始め、4回生のときに迎えた全日本スナイプで初優勝。その年の全日本インカレも、チームをクラス優勝に導く。昨年の全日本スナイプで二連覇を達成し、日本代表として蒲郡ワールドに挑む。今年は地元岡山の国体も目指し、470のハーネスを着る。岡山県出身 176cm 77kg

 

 

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