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race report 015

 

 

十年ぶりに博多で開催された全日本選手権。蒲郡ワールドを経験した日本代表たちは、どのような成長を遂げたのか。台風17号の影響によるハードコンディションの中、児玉・田中ペア(豊田自動織機)が圧倒的なスコアで初優勝を勝ち取った。急激に加速を始めた日本スナイプ。自国開催の世界選手権という刺激を受けて、史上に残る白熱したレースが展開された。

 

text & photographs by Koji Ida

 

郡ワールドの余韻が残る中で開催された今年の全日本スナイプ選手権。そのワールドで好成績を収めた松崎選手(豊田自動織機)と杉山・金田ペア(静岡ガス)は、残念ながら諸事情により不参加となった。このことにより「日本一を決める大会にならないのでは?」と心配したのは筆者だけではなかっただろう。しかしながら、ふたを開けてみれば、そんな心配をしたことが恥ずかしいくらい、ハイレベルなレースが繰り広げられた。

 

参加選手をみると、ある意味「チャンピオン・カーニバル」とも呼べる顔ぶれである。2001年大会優勝の高村選手と97年大会優勝の森田選手(ホンダ熊本)が組んだスーパーチーム、98年大会優勝の白石選手(ノースセール・ジャパン)、2003、2004年大会を連覇している加原選手(ベネッセセーリングチーム)など、過去8大会のタイトルホルダーが結集した。おそらく日本スナイプ史上、もっとも熱く燃え上がった大会になったのではないだろうか。

 

今大会は、ちょうど十年ぶりに博多で開催されることとなった。筆者としても、いまの相棒とコンビを組んで初めて出場(当時は筆者がクルー)したのが、その十年前の全日本スナイプであり、特別に想い出深いゲレンデである。昨年は予選落ちで出場できなかったので、久々に全日本スナイプを帆走れるのが嬉しくて仕方がなかった。筆者ペアは、今年は特にキャンペーンを組んでいた訳ではないので「結果は二の次」という姿勢で、レースを楽しんでみることにした。一番の関心は、蒲郡ワールドを経験したトップ選手たちが、何を手に入れ、何処までレベルを上げたのか。今年一年間で生じた「差」を、この目で確かめたかったのである。しかしながら、いざレースが始まってみれば「結果は二の次」なんて言ってられない。どうしても、速い艇が横に並べば「ブチ抜いてやるぜ!」という隠し切れない本性が出てしまう。そして真っ向勝負を挑み、熱くぶつかって、ブチ抜かれてしまった・・・・・・。

 

圧倒的なスコアで初優勝を達成した児玉芭晴(左)・田中年彦(右)ペア(豊田自動織機)。早稲田大学時代からナショナルチーム入りした元470トップペア(470では田中選手がヘルム)である。ワールド準優勝の松崎選手のコーチングを始めたのが切っ掛けで、自身もスナイプで活動するようになる。トラピーズ艇出身の彼らがハイクアウトをこよなく愛している姿に脱帽である。

 

 

後半、凄まじい勢いで追い上げてきた瀬戸口輝(左)・藤田旭洋(右)ペア(ホンダ熊本)。森田選手のプチ引退宣言により、捨てられてしまった藤田選手が、瀬戸口選手に拾ってもらって結成したドリーム・チーム。ダブルトライアングルのフリーレグでのスピードは圧巻。筆者ペアも第一上マークでは殆ど前にいたのに、全部フリーで抜かれてしまった。マイアミに向かって、彼らの加速は止まらない

 

 

 

 

最後まで優勝争いを演じた白石潤一郎(右)・大井祐一(左)ペア(ノースセール・ジャパン)。ペア体重が120kgアンダーながらも、そのハンデを周囲に気づかせない抜群のボートスピードで、殆どのレースを支配した。「体重が軽いから強風は苦手で・・・・・・」という弱気な学生たちを否定するのに、最高のサンプルとなってくれた。クルーの大井選手は、日本大学のレギュラースキッパー。インカレ優勝に向けて、今回学べたものは大きかったのではないだろうか。

 

 

会前半は、軽風から順風域でのレースとなり、地形の影響を受けたトリッキーなシフトの中での我慢比べとなった。安部・山近ペア(シルトロニック)が引っ張る形で、白石・大井ペア(ノースセール・ジャパン)と三連覇を狙う加原・磯部ペア(ベネッセセーリングチーム・牛窓スナイプ学級)などが上位グループを形成し、接戦を繰り広げる。しかしながら、昨年からレース数がエクスパンションされ、最大で11レース、9レース以上で2カットとなっている為、カットレースを考慮すると10チームくらいが団子状態で並ぶ形となる。

 

大会後半は、日本列島南海上を通過した台風17号の影響で、平均が10m/sを超える強風域でのハードコンディションとなり、蒲郡ワールド参戦組の実力が明確に現れる結果となった。この強風下で行われたレースの上位陣は、何度やっても顔ぶれは同じ。

 

児玉・田中ペア(豊田自動織機)は、抜群のボートスピードと、ベテランながらのレース展開で、3−1−(30)−1−1−3−5−2−(DNF)という驚異的なスコアで、最終レースを待たずに優勝を決めた。全9レースが実施されたが、カウントされた7レースの平均スコアが2.18点である。これだけのレース数が行われたにも関わらず、ここまで圧倒的なスコアが残せた一番の理由は、まさにボートスピードの差であろう。チームメイトである、ワールド準優勝の松崎ペアと作り上げてきたベースは、世界に通用するものであるということを証明してみせた。

 

後半の強風域で爆発的な追い上げを見せたのが、瀬戸口・藤田ペア(ホンダ熊本)。サバイバルコンディションになってからの5レースで、3−1−2−1−1位と他を圧倒した。デスマストの危険もあるフリーレグで、小刻みにウィスカを展開しながら、失速を最小限に抑えたボートハンドリングで他艇の追従を許さなかった。蒲郡ワールドで日本選手中最下位に終わり、不完全燃焼だった瀬戸口選手がこの暴風を得て、やっと本領を発揮した。逆転されて、総合3位に落ちた白石・大井ペアとあわせた上位3チームのトップ争いは、それ以外のフリートとは全く別次元の戦いだったように感じる。

 

唯一、そのレベルに割って入ったのが、総合4位の武居・伊藤ペア(アイシン・エーアイ)。武居選手は、逗子開成高校から日本大学へと進み、今年から実業団一年目となった若手のホープ。蒲郡ワールドを核とした、中部水域のヒートアップが、彼ら若い世代にいい影響を与えているのではないだろうか。若手の飛躍と、ベテランの意地がぶつかり合っているこの水域が、これからも熱く燃えそうである。来年の西半球出場枠が掛かる5位にすべり込んだのは、高村・森田ペア(ホンダ熊本)。森田選手は蒲郡ワールドを終えて、一旦スナイプのティラーを置いたが、今回は高村選手のクルーとなって、スーパーチームを結成して参戦した。シュールなコース展開でスコアを纏めたところは、ベテランならではの職人芸である。

 

今大会の特徴は、上位陣の圧倒的なスコアリングである。優勝の児玉ペアだけでなく、5位の高村ペアでさえも、平均5.14点と極端に低い。「これで優勝できないなんてね」とボヤいたのは森田選手。確かにこれだけ纏められたらどうしようもない。抜かれまくって惨敗感たっぷりの筆者ペアでさえ、平均スコアは8.0点なのである。いつもなら、勝ち誇ってもいい結果だ。一体何が、この差をもたらしたのだろう。

ずはハード。今回が初めての全日本優勝となったピアソンボート。数年前から日本にも輸入されるようになり、MK2000以降のモールドデザインの優位性は、世界でも十分に証明されている。近年、実業団のトップ選手たちがこのボートを採用し、乗りこなせるようになったことが、ワールドでの好成績にも繋がっている。しかしながら今大会では、強風下でピアソン製ラダーが破損するトラブルが続出しており、安部ペアのように、そのリタイアによって優勝戦線から脱落した選手もいる。ボートについては「百点満点のものは未だ存在しない」というのが筆者の私見。だが、今のピアソンの勢いを止めることは、そう簡単ではない。マーケットが小さい中でのモールド開発は現実的に厳しいと思うが、国内ビルダーの巻き返しを期待するし、応援したい。選手たちが世界と戦っているのと同じように、日本のハードサプライヤーたちも戦っているのだから。

 

もう一つは、ノースセール・ジャパンのラジアルモデル開発である。開発経緯の詳細やトップ選手のコメントは、同社のWEBサイトに照会されているので、興味のある人は覗いてもらいたい。上位選手は殆どノース・ラジアルを採用しており、パネルカットセールを使用していたのは高村ペアと筆者ペアのみであった。ラジアルが良くて、それ以外は駄目、という単純なことではない。ラジアルを使っていようが、筆者ペアよりも遅いボートは沢山いた。要は、セールの開発意図を理解し、そのカーブを海上で実現し、感覚に置き換えられる者だけが、その開発目的である「スピード」を手に入れることが出来る。机の上の計算だけではなく、海上で試行錯誤をドロドロになって繰り返してきたからこそ、実現できたスピードである。学生諸君などには「購入するだけで速くなると思ったら大間違い」とだけ、注意しておきたい。

 

今回のスコアの差は、当然ながら道具だけのものではない。この強風下で、クラスルールで定められたロングコースを戦い抜くには、その苦痛に耐え抜くフィジカルタフネスと、最後まで意志を貫くメンタルタフネスが必要である。

 

4位入賞と躍進した武居徳真(右)・伊藤和央(左)ペア(アイシン・エーアイ)。実業団一年目の武居選手は、陸上でも「スナイプ大好きっす!」というのが顔から滲み出している。それは母校の内田教諭の影響だろうか。彼らのような若手選手が活躍してくれることにより、豊田自動織機チームの快進撃と併せて、中部水域が今後も盛り上がっていきそうである。来年の西半球では、彼ら若者が「怖いもの知らず」の勢いで、日本チームを活気づけて欲しい。

 

スーパーチームの高村茂生・森田友蔵ペア(ホンダ熊本)は、抜群のスコアながらも総合5位。蒲郡ワールド以降、一旦はティラーを休めている森田選手も、スナイプ自体は休めなかったようである。本人たちは「ウケ狙い」と言いながらも、小刻みなコース展開で順位を上げてくる様は、まさにイブシ銀。スナイプの国際レースを一番経験しているチャンピオンコンビに、マイアミでの期待が掛かる。

 

 

ース期間中のある日の夜、豊田自動織機チームやホンダ熊本チームなどとの会食に参加させてもらった。その際、児玉・田中ペアからの話がすべてに思えた。

 

松崎は“ドM”だからね。本当にハイクアウト・マゾ。あれの練習相手になるには、こっちもマゾにならなきゃ。」

 

苦痛に耐え抜いたものだけが、最後に笑うことが出来る。松崎選手は今回欠場となったが、ペアを組む杉浦選手が同チームの石崎選手のクルーとして参加した。石崎選手は、杉浦選手の前任クルーである。その「ドM」のクルー同士がコンビを組んで、一番のド強風となった最終レースで、雄たけびをあげながら筆者ペアをブチ抜いて、2位でフィニッシュ。

 

強風下で上位を帆走る顔ぶれは同じであったが、彼らは必ずしもスマートに帆走っている訳ではない。繰り返す波とブローに、大声で不満をぶちまけながら帆走っている。まるでその声と一緒に、自身の気力を振り絞るかのように。勝利への意思が、その風に吹き飛ばされてしまうのを必死で防ぐかのように。

 

今大会の上位5チームには、来年マイアミ(米)で開催される西半球選手権への出場資格が与えられる。そこは蒲郡ワールドで二連覇を達成したディアスの本拠地でもある。自国での世界選手権開催で成長した日本代表たちは、次なるアウェーでの戦いで、いかにスコアを刻むのだろう。

 

日本のトップレベルは、確実にスピードアップしている。そのことが今大会で証明された。彼らは、出来ることを繰り返してきたのではない。今まで出来ていたことを一旦すべて壊し、そこから新しい何かを見つけようとしてきた。惰性でやっている者には、そこに入り込む余地はない。しかしながら、まだ加速の途中である。ここでスピードが完成したと過信すれば、成長を求める他の者に、また抜かれていくことだろう。日本スナイプは、まだまだ加速していく。今年、もう少しのところで逃した世界タイトル。この加速についていくことができれば、そこに手が届く日が来るのではないだろうか。■

(文中敬称略)

 

All Japan Snipe Championships 2005

    20-25 Sep 2005    Hakata-Bay

 

 

1st

児玉・田中

豊田自動織機

15.25

2nd

瀬戸口・藤田

ホンダ熊本

20.25

3rd

白石・大井

ノースセール・ジャパン

23.75

4th

武居・伊藤

アイシン・エーアイ

30

5th

高村・森田

ホンダ熊本

36

6th

加原・磯部

ベネッセST

/牛窓スナイプ学級

51.75

7th

井田・山崎

SHIMADZU

56

8th

安部・山近

シルトロニック

79

9th

岩瀬・高木

アイシン精機

79.75

10th

 

西居・橋本

松喜屋

80

 62boats/9races(2 cut)

 

 

 

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