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[column]  鷸が跳ぶ

 

017 地球の裏からブエノス・ディアース

その壱「そこで気付いたこと」

 

text by Koji Ida

 

 回のウルグアイ遠征、本当にハイクアウトしまくりました。そんなに風の吹かない琵琶湖で月に1〜2回くらいしか練習しない筆者は、このレース期間で3年間分くらいハイクしたのではないでしょうか。朝から毎日吹いている風景をみて、故郷の境港を思い出しました。

 

兎にも角にも、アレックスとブルーノのブラジル2艇の速さが強烈に印象づけられた大会でした。ロドリーやオギーのアメリカチームも健闘しましたが、トップ10の中にはブラジルが5チーム、地元ウルグアイが3チームと、南米勢の強さが際立ちました。やはり彼らから学ぶことはまだまだ沢山ありそうです。

 

日本国内では、実業団トップ選手に限ると使用する道具がボート=ピアソン、セール=ノース・ジャパンで統一されつつあります。ただ世界的な動向をみると日本のそれとは違い、複数のビルダーやセールメーカーがひしめいています。

 

ボートについては、やはりピアソンが主流ですが、みんながみんなピアソンという訳ではありませんし、MK2000以前の古いモールドのピアソンに乗る選手も沢山います。今回優勝したブルーノはブラジルのビルダー「ディメール」に乗っており、ブラジル選手の半数くらいは、このディメールを選んでいます。筆者も2004年大会のときにこのボートをチャーターしましたが、ナカナカいいフネですよ。そのときも最終レースはトップ取れましたし。

 

[参考文献]

column006 地球の裏からボンジーア

その壱「道具は関係あるの?」

http://www.eonet.ne.jp/~fullhike/c-006.htmc-006.htm

 

そして今回、筆者が遠征前から「ウルグアイなら見れるかなぁ」と期待していたのが、数年前にアルゼンチンの名手クリスチャン・ノエが立ち上げたビルダー「プリメックス」。現在ビルダーの所在地であるチリの選手が多く乗っていましたが、ユニークなコクピットなので、いつか是非乗ってみたいですね。で、チリの選手とレースするのは初めてだったのですが、これが結構速いんですよ。海外ではいろんなビルダーが元気にスナイプを造っているので、日本のビルダーさんにも打倒ピアソンで頑張って欲しいですね。

 

セールについては、ブラジル選手は殆どがイタリアの「ZAOLI SAILS」(http://www.zaolisails.com/)を使っていました。どうやらパラデダが監修しているようで、彼のセールス力の賜物かと思います。日本にもいずれ登場するかもしれませんね。以前はクァンタムが主流だったアメリカチームは、今回殆どのペアが「オリンピックセール」(http://www.olisails.it/en/index.php)に鞍替えしていました。クァンタムはサンディエゴ・ロフトのジョージがスター級に注力している間に営業力が落ちてしまったのでしょうか?鞍替えした理由は聞きませんでしたが、スナイプのセールは日本以外ではイタリアのメーカーが市場を覆いつつあります。

 

ただ日本で活動するチームにとっては、チューニングのアドバイスなど、サービス体制も含めてノース・ジャパンに優位性があると筆者は思います。今回の日本チームで、ノース・ジャパンが強風コンディション用として推奨しているメインセールSW3を準備していたのは吉岡・斎藤ペア(SPN)だけでしたので、そのSW3が他のセールメーカーのデザインに対してアドバンテージがあるのかどうかを判断するには、データが不足しています。それよりも、今回上位を帆走ったチームとのスピード差はセッティングやフィジカル面にあったと筆者は考えています。

 

ッティングについては、筆者自身が全然突き詰めていなかったことを思い知らされました。筆者はここ数年の練習不足により、強風用セッティングをまったく準備できませんでした。数少ない練習日は風が弱くてハイクアウトすら出来なかったし、普通のセッティングでも国内では通用したので・・・。筆者ペアのクローズホールドは、上り角度は抜群だったんです。シフトが少ない、もしくは左右均等にシフトが入るゲレンデなら、しっかりと彼らと競い合えていたと思います。スタート後は風上の艇をバタバタとなぎ倒すようにノボリ殺してたし。でも、その帆走り方だけでは武器が足りなかったんですよね。大会の途中で新しいセッティングを試そうとも考えたのですが、練習でやっていないことをすべきではないと思い、やめました。

 

オギーなんかは明らかにマストステップを従来ルールの位置より前にしていましたし、筆者ペアは国内で主戦場となる軽微風コンディションにあわせてスプレッダーを長めにセッティングし過ぎていたかもしれません。セールのデザインに合わせたディフレクション値の追求など、時間と手間の掛かる作業ですが、そういった極限の強風下でも詳細のディテールを埋める努力をしていかなければ、彼らに追いつくことはできないでしょう。

 

フィジカル面で一番差を感じたのは、やっぱりハイクアウト。南米の連中は反ってるし伸びてる。確かに日本人よりは明らかに体格の優れた選手が多いですが、今回優勝を争った2チームは、そんなに身体が大きい訳ではありませんでした。ペア体重も140〜150kgくらいでしょう。ハイクフォームについて、ハムストリング(大腿部後側)のどの部位にガンネルを当てるか、ひざをどこまで伸ばせるか、というのを追求しないといけないですね。特にアレックスは、フルハイクのフォームからオンデッキまでの移動がすごいスムーズ。この身体の使い方とフィットネスを鍛えれば、スナイプだけでなくレーザーなどでも有効でしょう。このムーヴィング・アクションがあるからこそ、リーチングでのボディバランスが抜群なのだと思います。彼らと一番差があるのはリーチングのスピードなんですよ。トップスピードではなくて、プレーニングの持続性。レース前半は上マーク順位が悪かったので気付きませんでしたが、レース後半にシングル近辺で上マークを回れるようになって、やっと解ってきました。トップ2チームには、上マークを回った後にビックリするくらい差を拡げられます。

 

筆者が今回一番学んだのは「しっかりハイクアウトする」こと。いまさらですが、如何に遠くに伸びて、如何にフネを起こすか。この苦痛を伴う作業を限界まで追求するからこそ、セッティングやタクティクスも妥協せずにキッチリできる。ハイクの苦しみを無駄にしないように。ここ5年間ほど、フィジカルトレーニングはまったく真剣にやっていないし、これから肉体を成長させられる年齢でもありませんが「頑張らなくては!」と、しみじみ思いました。

 

あと、筆者が一番しくじったのがスタートです。今回のプランは「スタート後に左へ延ばす展開に持ち込みたいけれども、アウター付近の密集地ではリスクがあるので、スタートラインをしっかりと把握して、ラインの真ん中、もしスペースがなければ本部船よりからスタートし、ぐんぐんバウを出しながら左へ延ばしていく」というものでした。しかしながら、スタートラインの延長線上の景色は何処も似たような景色の砂浜で、ターゲットとする目立った造形物がありません。また、でっかい観覧船がラインの延長線上にドカンと位置取っていたので、正確なラインが把握できないのです。という訳で、一発目のスタートでは全然消極的になってしまい出遅れて、どうしても右へ逃げてポジションを悪くしてしまう。ゼネリコとなって2回目のスタートでZ旗ルール(20%ペナルティ)が適用され、艇団がラインに対して消極的になったときだけ、プランどおりのスタートとコース展開ができました。それらのレースはすべて、上マークもシングル前後で回航でき、フィニッシュも10位代前半で纏められています。ということは、スタートさえ全て成功させていれば、少なくとも総合トップ10には食い込めたということ。やっぱりどのレベルのレースでも、スタートが一番重要なんですね。

 

南米の選手が多く使用していたZAOLI SAILS。パネルカットの構成ながら、スムーズなスロットル・ラインを実現している。

 

 

クリスチャン・ノエが手掛けるプリメックス。470のようなコクピット内の補強フレームが特徴。

 

 

アルゼンチンのコルドバ州セーリング連盟の遠征カー。

こんな車を作っちゃうスナイプ好きが世界にはいるんですよ!

 

会で印象に残ったのは、総合13位に入ったアルゼンチンのZABALUA・ARROYO組。クルーのマリアーノは、背中の右肩部分にスナイプマークのタトゥーを入れるほどのスナイプ狂で、自身でウッドラダーのブランドを立ち上げています。筆者とは2000年アルゼンチン大会からのアミーゴ。今回シャワー室で背中を見たら、左肩にハイクアウト・ポーズの新しいタトゥーを入れていました。そんなスナイプ好きな彼らですが、そんなにセーリングは上手くありません。国内予選を通過できず、いつも国際大会にはレース会場に遊びにくるだけ。2003年の世界選手権にはアルゼンチンの経済崩壊のお陰でオコボレ枠をもらって出場していましたが、本当にヘタッピ(46位)でした。そんな彼らが今回は堂々の総合13位。やっぱり、好きになること、継続すること。それが一番なんだなぁと、思い知らされました。

 

まずは誰よりも好きになる。

近道ではないかもしれませんが、正しい道のような気がします。■

 

 

 

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